グッド・アンセスター わたしたちは「よき祖先」になれるか ローマン・クルツナリック著

2021年11月7日 07時00分

◆短期思考 支配の現代を問う
[評]菅原琢(政治学者)

 気候変動などの人類の危機に際し、未来の人々にとってよき祖先(アンセスター)となるために、現代に生きるわれわれはどのように考え、行動すればよいのだろうか?
 この本書の問いかけに、絶滅した生物に関する絵本を読んだ幼少期の記憶が呼び起こされた。スーパー付設の子ども図書館で借りたその絵本を読み、先人たちの愚かさに憤り、時間の不可逆性を実感したものだが、今やその先人の立場に自らが立っていることに気付かされたのである。
 目先の利益に応じた即断は現代人の特徴である。「今すぐ購入」ボタンや最新の世論調査に右往左往する政治家など、その例は枚挙に暇がない。だが、近視眼的な「短期思考」は生態系の破壊などの重大な影響を後世に残す。本書はこの現状を「未来を植民地化」するものと喝破し、読者を「長期思考」へと誘う。
 もっとも、短期思考が支配する現代において長期思考の概念は朧気(おぼろげ)である。そこで本書は、最新の研究成果から世界各地の先住民族の儀式まで、あらゆる人類の英知を紡ぎながら、長期思考を実践的な思考法として再構築する。そして、政治、経済、文化において長期思考を導入する数々の試みを紹介し、未来への希望をつなぐのである。
 江戸幕府の林業に先見性を見たりSF作品に期待を寄せたりと、次々に紹介される事例や実践は、悪く言えばパッチワーク的でときに過大評価と感じさせるものもある。ただこれは、読者に何か一つでも引っかかればという仕掛けと捉えられる。長期思考の主語を「私」から「私たち」へと広げることが、本書の目指すところだからである。
 近年、社会の短期思考はますます強まっていると感じられる。調べたところ、先進的とされた前述の子ども図書館もだいぶ前に事業を止めていた。次世代に目を向ける余裕すらない現代人が「七世代先」を見据えるのは簡単ではないはずだ。そう考えていくと本書は、短期思考の海に溺れる私たちを未来のどこからか俯瞰(ふかん)する視座を与えたものと表現することができるだろう。
(松本紹圭訳、あすなろ書房・1980円)
1971年生まれ。英国の文化思想家。著書『仕事の不安がなくなる哲学』など。

◆もう1冊 

蟹江憲史(のりちか)著『SDGs(持続可能な開発目標)』(中公新書)

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