なぜ? 地上波から消えたサッカーW杯予選 11月のアウェー2連戦は有料動画配信の独占中継

2021年11月8日 06時00分

10月7日、アウェーで行われたアジア最終予選第3戦でサウジアラビア選手とボールを争う吉田(右)ら日本代表(AP)

 4年に1度のサッカーのワールドカップ(W杯)を目指す日本代表がファンをヤキモキさせている。7大会連続出場が懸かるアジア最終予選で9月の初戦から苦戦が続き、今月は、対戦相手の国・地域で試合に臨む「アウェー」2連戦のヤマ場。加えて地上波の中継がない。アウェーの日本戦は有料でスポーツの動画配信を手掛ける世界的な「DAZN(ダゾーン)」が独占中継。無料放送の地上波がないのはなぜか。(上條憲也、唐沢裕亮)

◆放映権料高騰、ホームのみ「バラ売り」で購入

 「私自身が一番不本意だ」と話すのは、日本サッカー協会の田嶋幸三会長。放映権を管轄するアジア・サッカー連盟(AFC)に「(管轄の)権利が本来あるのはわれわれ(各協会)だと訴えてきた」が、反対されてきた。AFCもコロナ禍で収入減の中、高額の放映権を購入したのが、成長メディアでJリーグなどを配信するDAZNだ。
 中国系の代理店を介して当初、日本の放送局に2028年までの8年で2000億円規模の提示があった。だが日本戦を地上波中継してきたテレビ朝日は高額のため見送り。視聴率が望める時間帯のホーム戦だけ「ばら売り」の形で購入した。

◆英国では「重要試合の無料放送」を国が保証

 「英国では法律の指定する重要試合の無料放送が保護される」と言うのは、椙山女学園大の脇田泰子教授(マスメディア論)。だれもが自由に情報を得られるユニバーサル・アクセス権が根拠となる。
 民放中心に発達した米国に対し、伝統的に公共放送主体の欧州も1990年代に契約視聴のケーブルテレビが登場。メディア王と呼ばれたルパート・マードック氏が欧州でスポーツの有料放送を開始し、「大衆が見たいと思うものがたくさん登場し、無料放送に対する危機感が募った」(脇田教授)と、有料放送の独占放送を禁止する形で規制が大幅強化された。
 一方で、国が特別指定する国民的スポーツの独占放送を認めないこの権利を、脇田教授は「最後の手段」と表現。「国による規制は、自由な経済活動を阻害することでもある」

◆応援熱低下、若者のテレビ離れも影響

 サッカーW杯も来年のカタール大会、あるいはそれ以降で放映権料が高騰する可能性もある。日本は五輪やW杯はNHKと民放でつくる「コンソーシアム(共同事業体)方式」で巨額の放映権料に持ちこたえてきたが、対抗できなくなれば、有料放送を軸に地上波は準決勝、決勝のみなど「かつてない放送形態が生まれるかも」とも。
 スポーツの公共性を重視する欧州に対し、日本は地上波の無料放送がなくても「権利」を主張する声は起きにくい。日本代表がW杯出場を逃した93年の「ドーハの悲劇」や初出場を決めた97年の「ジョホールバルの歓喜」の頃より、今は勝って当然と応援の熱量も低く、ネット社会では若者のテレビ離れもある。
 脇田教授は「勝っても負けても愛している、くらいの情熱が続くと、生中継で見られないことが腹立たしく思えてくるはず。なぜ映らないんだとの議論も自然に起きるようになるのでは」。全10試合の最終予選の半分のアウェー戦はあと3試合。田嶋会長は「ワクワクした試合をして勝たないといけない」と話す。

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