中国に電力、欧州にガス、インドに石炭… ロシアがエネルギー輸出攻勢 「脱炭素」で燃料高騰を追い風に

2021年11月8日 17時00分
 ロシアが、エネルギーの輸出攻勢に出ている。化石燃料の高騰を追い風に、親ロ国への電力や石炭の供給を増やす。欧州に対しては天然ガスの長期契約を結ぶように迫る。エネルギーは、覇権を拡大するための「武器」なのか。(モスクワ・小柳悠志)

◆中国への電力量3倍に 石炭は北朝鮮経由

 ロシアは10月、中国東北部に供給する電力量を3倍に増やした。中国は電力需給が逼迫ひっぱくしており、ロシアが緊急の融通に応じた。

石炭輸出拠点のロシア極東ナホトカ。ロシア企業は北朝鮮の港も活用して中国への輸出を増やす計画=小柳悠志撮影

 中国への石炭輸出も増やす。コメルサント紙によると、シベリアから石炭を北朝鮮・咸鏡北道ハムギョンプクトの港町まで鉄道で運び、貨物船に移して輸送を目指す。実現すれば北朝鮮にも手数料が入り、ロシアを軸に3国の絆が深まるのは必至だ。
 北朝鮮を巻き込んだ資源輸出は、国連の対北制裁に抵触しかねない「禁じ手」だが、ロシアでは懸念する声は少ない。原油高を受け、ロシアの資源に頼る国が広がっているためで、ロシア通貨ルーブルの対ドル・ユーロ相場も上昇基調だ。

◆ハンガリーはガス長期契約 「ガス回廊」のトルコ

 ハンガリーは9月、ロシアから15年間にわたって年45億立方メートルのガスを輸入する長期契約を結んだ。ハンガリーは欧州連合(EU)加盟国では例外的にロシア産の新型コロナウイルスワクチンを承認するなど親ロ色が強い。
 ガス契約では、ロシアのガスをトルコ経由の輸送管で送ると定められ、欧ロ間で大動脈の輸送管が敷かれているウクライナは通過しないことに。ガス経由地のメンツを失ったウクライナ外務省は「政治的思惑を帯びた決定だ」と猛反発した。一方のトルコは「ガス回廊」としての地位を高めた。

ハンガリーへのロシア産ガスの輸出に使われるトルコ経由の輸送管=2018年撮影、ロシア国営ガスプロムのホームページから

 「ロシアとの長期契約でハンガリーは合理的な価格でガスを入手できる。最近の欧州のスポット(1回ごとの取引)価格は異常な高値だ」とロシア会計大学のイーゴリ・ユシコフ研究員は説明する。

◆インドとも関係強化 いら立つ米国

 ロシアのプーチン大統領は10月、モスクワで開催されたエネルギー国際会議で、欧州でのガス価格高騰に関し「ロシアは相手国からの要請があれば供給を増やす」と述べ、安定したガス価格を望むならば、長期契約を検討するよう求めた。
 勢いづくロシアに対し、いら立ちを強めるのが米国。バイデン大統領は同月、ドイツのメルケル首相と会談した際、「ロシアが政治的意図をもってガス供給を操作しない体制をつくることが重要だ」と述べたが、他国の取引に対して打つ手がないのが実情だ。
 ロシアは、インドに対しては、製鉄で使うコークス炭の輸出を増やす方針。ロシアにとってインドは武器輸出の大口顧客で、関係強化を図る狙いとみられる。

◆急激な「脱炭素」で新規採掘停滞

 原油や石炭、ガスの価格はなぜ急騰したのか。新型コロナウイルスのワクチン接種も進み、各国の経済活動が再開したことがきっかけとされるが、急激な「脱炭素」の流れが混乱を生んだとの指摘もある。
 日本のエネルギー大手の関係者によると、二酸化炭素(CO2)の排出削減が課題となる中、新規のガス田開発や石炭採掘などのプロジェクトへの投資がここ1、2年で停滞した。一方でガスや石炭の消費量は中国を筆頭に伸びているため、需給は必然的に逼迫する。
 またCO2排出量が石炭と比べて少ないガスの引き合いが強まったことが、欧州でガス高騰の一因になった可能性が高いという。
 世界の資源国で、ロシアはガス、石油、石炭の輸出量がいずれも3位以内に入る。ただ目下の原油高を受けて、世界的に再生可能エネルギーの導入が加速するとみられ、化石燃料に頼らない産業改革が急務となっている。

関連キーワード


おすすめ情報

国際の新着

記事一覧