衆院選が示す国の未来

2021年11月9日 07時21分

自民党本部の開票センターで当確者の名前にバラを付ける岸田首相(中)ら=東京・永田町で

 衆院選の結果が出た。新型コロナウイルス禍にあえぐ人々の生活支援や経済格差の是正、ジェンダー平等の推進、政治不信の解消など、この国が抱える課題解決への歩みはどう変わるのだろう。

<第49回衆院選> 10月19日に公示、31日に投開票が行われた。自民党が単独で過半数を獲得。最大野党の立憲民主党は14議席減の96議席となり、枝野幸男代表が辞任表明した。日本維新の会が41議席を獲得し衆院第3党に躍進。与党に維新を加えた議席は改憲発議に必要な3分の2(310)を上回った。投票率は戦後3番目に低い55・93%。

◆政治の軸足変わらず 政治学者・新藤宗幸さん

 理由がはっきりしない中、コロナ禍がいったん落ち着いてきたことは、与党には「恵みの雨」になりました。
 報道各社の事前の予測よりは議席を減らさなかった自民ですが、甘利明幹事長ら大物が小選挙区で敗れるなど、厳しい面もありました。今回の選挙は、「モリ・カケ・桜」など、安倍政権から疑念がくすぶっている問題をいかに清算していくかが大きな争点だったはずです。しかし、岸田文雄首相には今までの政権との間にきちんとした線引きをする決意が見られず、その象徴が甘利さんでした。
 安倍・菅政権での一貫性のないコロナ対策や、働き方改革、女性活躍推進といった政策は、普通の生活者の視点に立ったものとは思えませんでした。コロナ禍で浮き彫りになった医療や格差なども含め、こうした課題に対して岸田さんからは積極的な提言がなく、結局、これまでの政治を踏襲するのだと感じられました。今回の選挙結果を受けても全体的に、日本政治の軸足が大きく変わることはないと思います。
 今回大きく伸びた維新には、自民への批判票が入ったのでしょう。共産と組んだ立民に抵抗感を感じた人たちからしたら、もう少しきれいな保守政治をしてほしいという思いがあったのではないでしょうか。
 安倍・菅政治の継承への不信感が、維新の躍進という形で大きく表れたと言えますが、批判票をうまく取り込めなかった立民や共産は視野が狭かったと言わざるを得ません。総選挙があることはずっと前から分かっていたのですから、自分たちが政権をとったら何をやるかという、しっかりした骨格の政策綱領を早めに発表すべきでした。共闘を意識しすぎて、擦り合わせなどに逆に足を引っ張られてしまった印象です。今回の「敗北」の要因を党内で徹底的に議論しないといけません。
 今後は改憲なども見据え、維新の存在感が増し、公明との綱引きが始まるのではないでしょうか。
 投票率の低さからは、「何を言っても、やっても無駄だ」という市民の諦めの境地を感じます。説明責任を果たさない政権が続き、世襲議員ばかりの「政治商店」がたくさんできているような状況は、一般市民が政治にアプローチすることを非常に難しくしています。 (聞き手・清水祐樹)

<しんどう・むねゆき> 1946年、神奈川県生まれ。千葉大名誉教授。専門は、行政学、地方自治論。立教大法学部教授、千葉大法経学部教授、日本行政学会理事長などを歴任。

◆選挙頼みの変革 限界 経済思想家・斎藤幸平さん

 自民党が少ししか議席を減らさなかったのは、立憲民主党と共産党による野党共闘の敗北だったと認めざるを得ません。コロナ禍で見えた格差の是正や気候変動阻止、ジェンダー平等への具体的な道筋を語る大きなストーリーがなく、理念なき数合わせに終わったからでしょう。
 また立民が左派に寄りすぎた結果、日本維新の会への票が伸びました。私が危惧するのは、野党が、維新を支持する人たちに投票してもらえるような政策を掲げないと反自民の受け皿になれないと総括し、政策が保守化していくことです。そうなると社会全体が保守化し、選択肢がなくなってしまう。これは選挙だけで社会を変えようとする選挙主義の限界です。
 私たちは今、経済格差と気候変動という二つの危機に直面し、社会の価値観を変えて対処する必要があります。選挙で勝てないと社会は変わらないという考えがあると、社会運動も政治家も、票を集めることばかり考えて既存の価値観に擦り寄ってしまいます。それで仮にリベラルや左派が政権を取っても、社会を変える政策は票が集まらないので、打ち出すのは難しい。
 社会の価値観を変えていけるようなストーリーを作り、国民を巻き込んでいくことにかけるしかない。スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさんの運動によって、欧米では政治家も企業も気候変動への意識を変えました。ドイツでは「緑の党」が若者の間で最も人気が高い。こういうダイナミズムが、今の日本には一番欠けており、野党には、左寄りの大胆なストーリーが必要になるでしょう。
 一方、岸田文雄首相が格差に対して、小泉政権以来の新自由主義路線から分配政策に転換しようとしているのは前進と言えます。ただ分配の前提にしている成長は、一九六〇年代の高度経済成長期を思わせるノスタルジーにすぎません。気候変動対策となるグリーン技術に投資して成長を目指す世界のトレンドに取り残され、数十年後には何も輸出できなくなる厳しい未来への危機感は感じられません。
 気候変動は、夏の異常な暑さや記録的豪雨など、国内でも対応を先送りすることが許されない深刻な問題です。だからこそ、政治的な立場を超えて大きなうねりをつくっていける可能性があるし、格差をなくす運動にもつなげられるはずです。 (聞き手・曽布川剛)

<さいとう・こうへい> 1987年、東京都生まれ。独フンボルト大哲学科博士課程修了。大阪市立大准教授。マルクスの全集研究に基づいた著書『人新世の「資本論」』(集英社新書)で注目される。

◆女性議員増えず失望 政治学者・大山礼子さん

 今回の選挙結果のポイントは日本維新の会の躍進です。「今のままじゃ困る。変えたいけど、大きく変えるのは怖い」という有権者が多かったのかなと思いますね。
 変わらなかったといえば、女性議員の割合が増えなかったのにはあきれました。当選した女性候補は四十五人(前回比二人減)、9・7%(同0・4ポイント減)です。今回の衆院選は、男女の候補者数をできる限り均等にするよう政党などに求める候補者男女均等法の施行後初の衆院選でした。それなのに、この結果です。
 同法は、罰則のない努力義務ではありますが、政党などに女性候補者の数について数値目標をつくるよう定めています。にもかかわらず、自民党と公明党は今回、数値目標を示しませんでした。政権党が明らかな法律違反をした。変える気が全くないというわけです。
 こう指摘すると、「女性のことばかり言って」と文句を言う人がけっこういます。でも、女性だけの話ではありません。若い議員だって少ない。今の国会議員は本当に国民の代表なのでしょうか。私は既得権代表だと思っています。女性議員の数は、まさに国会の代表性の欠如を象徴している問題なのです。ここを変えることによって、ほかのところも変わるでしょう。
 せめてもの希望は、争点にはなったことでしょうか。さらに進めるためには、政党間の競争が必要です。海外でも、女性候補の比率を一定数定めるクオータ(割り当て)制は、野党が先に実施するなどの駆け引きの中で導入されたケースが多い。
 女性議員の割合を増やすことは現職には不利なわけで、普通だと変わるわけがありません。小選挙区制を導入した時のように、制度を変えることに反対したら落選するという雰囲気にならないと無理でしょうね。人は恐怖心でしか動きません。
 そのためには、国民の中に代表性の欠如を変えようとする動きが起きる必要があります。生活が豊かでないと逆に変革は起きにくいので今は厳しい状況ですが、私たち国民の国会ですから、関心を持つべきです。
 その点でメディアの政治報道も政局が中心の「永田町のタウン誌」ではなく、政治制度や法律に関する本質的な報道をしてほしい。国会を国民から遠い「業界」にしないために。 (聞き手・大森雅弥)

<おおやま・れいこ> 1954年、東京都生まれ。駒沢大教授。専門は政治制度論。著書に『日本の国会』(岩波新書)、『政治を再建する、いくつかの方法』(日本経済新聞出版)など。


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