【判決要旨全文】3人殺害の元看護師に無期懲役判決 責任能力を認めつつ、死刑回避の理由は 旧大口病院事件

2021年11月9日 17時20分

横浜地裁

 横浜市の旧大口病院(現横浜はじめ病院・休診中)で2016年9月、入院患者3人の点滴に消毒液を混入して中毒死させたとして、殺人罪などに問われた元看護師久保木愛弓被告(34)の裁判員裁判の判決公判が9日あり、横浜地裁(家令和典裁判長)は無期懲役の判決を言い渡した。死刑を求刑した検察側に対し、弁護側は無期懲役が相当だと主張していたが、裁判所はなぜ死刑を回避したのか-。

旧大口病院の点滴連続中毒死事件 起訴状によると、久保木被告は2016年9月15~19日ごろ、いずれも入院患者の興津朝江さん=当時(78)=と西川惣蔵さん=同(88)、八巻信雄さん=同(88)=の点滴に消毒液を混入して同16~20日ごろに殺害し、さらに殺害目的で同18~19日ごろ、点滴袋5個に消毒液を入れたとされる。

傍聴券に列、22倍

 午前10時50分まで傍聴の整理券が配布され、一般傍聴分の14席に対し、313人が列を作った。倍率は22倍だった。

傍聴整理券の抽選結果を確認する希望者ら=9日午前11時、横浜地裁で

判決公判始まる

 久保木愛弓被告は、初公判と同じ上下グレーのスーツで入廷した。ふちの細いメガネをかけ、鼻からあごまで覆う大きなマスクで、髪は後ろに一つでまとめている。弁護人の横の席に座り、じっと正面を見据えて開廷を待っていた。
 午後1時半に判決公判が始まった。家令裁判長は「予告してある通り、主文は最後にします。厳粛な場、宣告の手続きまで出入りは控えていただくようお願いします」と述べた。
 「久保木被告は正面の席に座ってください」と言った後、ゆっくり歩いて久保木被告は証言台へ座った。

うつ状態ではあったが統合失調症ではない

 被告は起訴内容を認めており、犯行当時の刑事責任能力の程度が争点の1つだった。検察側は起訴前の精神鑑定に基づき、被告には完全責任能力があったと主張。発達障害の一種である「自閉スペクトラム症(ASD)」の特性から、患者の家族への対応に不安を抱え続け、動機を形成する遠因になったが、犯行自体への影響は極めて小さいと指摘していた。
 これに対し、弁護側は、犯行時にうつ病を発症し、統合失調症の前兆症状の可能性があったとする起訴後の精神鑑定を基に、心神耗弱状態にあったと主張し、極刑を回避するよう求めた。
 裁判長は、判決理由から朗読を始めた。
 家令裁判長は「自閉スペクトラム症の特性があり、うつ状態にあったとは認められるものの、それ以外の精神の障害は認められない。被告人には責任能力があると認められる。弁護側の主張は採用できない」と指摘した。
 その後、裁判長は「死刑にするにはちゅうちょを感じざるをえず、死刑にするのをやむをえないと言えない」と述べ、無期懲役の判決を言い渡した。
 無期懲役を言い渡した後、裁判長は「わかりましたか?」と被告に尋ねた。「はい」とはっきりした声で被告は答えた。
 裁判長は被告に向け、「各犯行について慎重に検討しました。苦しい評議でしたが、無期懲役としました。生涯をかけて償ってほしいと思っています」と述べた。
▶次ページ、判決要旨「完全責任能力が認められる」
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