<社説>リニア工事事故 JRは安全貫く覚悟を

2021年11月10日 07時58分
 二〇二七年の開業が絶望的なリニア中央新幹線の前途に一層の暗雲が垂れこめた。岐阜県中津川市のトンネル工事現場で十月下旬、岩盤が崩れ、作業員二人が死傷した事故に続き、長野県豊丘村のトンネル工事現場でも今月八日に土砂崩落があり、一人が負傷した。JRは相次ぐ事故を重く受け止めなければならない。
 一四年に品川と名古屋で着工して以来、リニア工事で初めて犠牲者を出した中津川の事故後、JRは全十四工区の山岳トンネル掘削をいったん止めたが、数日で「工事手順、再発防止策を徹底した」として豊丘村の現場も含め、工事を再開した。国のガイドラインや法令が順守されていたのか、検証や再発防止策が強く求められる。
 百七十一人が亡くなった黒部ダムや、青函トンネルをはじめ、土木工事の歴史は事故や犠牲者と隣り合わせではある。大井川の流量減少を懸念する静岡県が常に「あしき先例」に挙げる現在の東海道線丹那トンネル(静岡県熱海市、函南町。一九三四年開通)工事では、大量の湧水が発生し、周辺が水枯れしただけでなく、六十七人が犠牲になっている。
 地元で語り継がれる悲劇は、大井川流域の住民や自治体がリニアの南アルプストンネル工事(静岡市葵区)を危惧し、県が着工に同意しない一因となっている。
 南アトンネルは全長二十五キロ、地表から最大千四百メートルの深さを掘削する日本の土木史上、比類なき難工事だ。突発湧水や崩落など、未知の地層に穴を開けて何が起きるのか、ボーリングなどで事前調査を尽くしても正確な把握には限界があると専門家は指摘する。
 JR東海は改めて、想定外の事態が起こり得ることを肝に銘じるべきだ。リニアを巡っては「大深度地下工事」や「盛り土流出」など他にも懸念材料がある。
 JRは全ての工期をゼロから見直すほどの覚悟で、相次いだ事故原因の究明はもちろん、慎重かつ緊張感をもった施工管理の徹底、積極的な情報開示の仕組み作りなど、体制の立て直しを図ることも必要ではないか。そうでなければ懸念は容易に払拭(ふっしょく)できまい。

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