中国の地方議会選挙 当局の支持受けない北京市民14人が警察の妨害で立候補断念「民主への道は長い」

2021年11月10日 12時00分


10月21日、北京市内で、野靖環さん(前列右)の選挙活動を拒もうとする当局者(前列左、中)。背後では清掃員らが水をまくなどしている

 中国の地方議会にあたる人民代表大会の代表選挙に、当局の支持を受けない独立候補として立候補を表明した北京市の市民14人が、警察などの妨害を受けて最終的に立候補の断念に追い込まれた。習近平しゅうきんぺい国家主席は「民主は中国共産党が常に堅持してきた重要な理念だ」と喧伝けんでんするが、14人の1人の人権活動家、野靖環やせいかんさん(69)は「(中国の)民主への道はとても長い。この生涯で、(その実現を)見られないかもしれない」と話す。(北京・中沢穣、写真も)
 庶民がいつでも会える代表となる—。14人はいずれも当局から抑圧を受けた経験があり、このスローガンの背後にはそれぞれの苦難に基づく思いがある。
 王峭嶺おうしょうれいさん(49)と李文足りぶんそくさん(36)の夫はいずれも、2015年7月の人権派弁護士ら一斉拘束事件で逮捕された。以降、2人の家族が当局から受けた「差別や虐待は数知れない」(李さん)。子どもが小学校や幼稚園から何度も退学を迫られ、留学を控えた子どものパスポートは発行されなかった。当局の圧力を受けた大家に、借家を追い出された経験は何度もある。

11月5日、北京市内に設けられた人民代表大会の代表選挙の投票所

 「学校に通えない子どもの姿は母として心が痛み、いつも泣いていた。警察はなぜ市民が家を借り、学校に行く権利を妨害できるのか」(王さん)。16年にそんな憤りを代表を通じて政府に訴えようと、600通の資料を用意したが、代表の連絡先は一つも分からなかった。類推した住所に郵送した資料は大半が届かず、満足な返信はなかった。
 王さんは「当選したら、問題を抱える庶民が必ず会える代表となり、当局に問題を伝える。この約束だけでも、多くの人が投票するはずだ」と訴える。
 当局による家屋の強制移転に抵抗し、拘束された経験もある朱秀玲しゅしゅうれいさん(55)と李海栄りかいえいさん(51)も同じ思いを口にする。李海栄さんは「これまでどんなに探しても代表は見つからない。庶民の声を伝えてくれる人がいないなら、自分たちがなるしかない」と話す。

◆尾行や一時的拘束、自宅軟禁などの妨害

 しかし10月15日に立候補を表明した直後から警察の妨害が始まった。警察に行動を制限されたため、最初の選挙活動を予定していた同21日には、14人のうち野さんら3人しか現場に来られなかった。当局が手配したとみられる清掃員らが野さんらを妨害する場面もあり、実質的な活動はほぼ封じられた。
 14人のうち10人が執拗しつような尾行や一時的拘束、事実上の自宅軟禁などの妨害を受け、警察から「この件の方針は決まった。今回は危ないぞ」などと脅された。李文足さんは大家に退去を迫られ、李海栄さんは子どもへの危害を示唆された。
 「恐怖と圧力にさらされ、身体の自由と生命を守るため選挙活動停止を宣言する」。14人は11月1日、苦渋の声明を出した。
 3回目の立候補となる野さんは過去2回でも妨害を受けたが、今回は直接的な暴力よりも、恐怖を与えるための脅迫が目立ったという。声明は「このような恐怖は想像しなかった」と憤りと悔しさをにじませる。
 当局はなぜ独立候補を恐れるのか。野さんは「当局にとっては、全ての人が声を出さないことが望ましい。私たちが当選してモデルケースになることも恐れている」と指摘する。14人のほか北京大の学生にも立候補の動きがあったが、中国メディアは黙殺した。独立候補の試みが広がることを警戒しているためとみられる。
 独立候補を排除した選挙は予定通り11月5日に投票があった。党機関紙、人民日報は6日付1面で、投票する習氏の写真とともに、「代表選挙は、人民が(国の)主人公であることを体現している」という習氏の自賛も伝えた。習氏は10月半ばの演説で「ひとつの国が民主的か否かは、広範な参政権があるかどうかを見るべきだ」とも述べた。

 ▽人民代表大会の代表選挙 人民代表大会の代表(議員)は、全国、省・自治区・直轄市などは間接選挙で選ばれるが、小さな市や区、県などは住民の直接選挙で選ばれる。任期は5年。今回の北京市の選挙では各区の代表計4898議席に対し、7278人が立候補した。同市の代表選挙実施細則によれば、18歳以上の有権者は原則として誰でも、政党などの推薦のほか、有権者10人以上の推薦があれば立候補できる。立候補者数は定数よりも「3分の1から2倍多い」範囲にするという「差額選挙」の規定もある。

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