「ビジョンない共闘、数合わせにとどまった」中道改革勢力の結集させ、健全な競争を 慶応大の松井孝治教授に聞く

2021年11月12日 06時00分

慶応大の松井孝治教授

<検証 野党共闘㊥>
 先の衆院選で、自民、公明両党の与党に対抗するため、立憲民主党や共産党などが多くの小選挙区で候補者を一本化した野党共闘。与野党が1対1で対決する構図に持ち込むことで、立民が小選挙区で議席を増やし、一定の成果を得たが、比例代表は伸び悩んだ。
 立民の枝野幸男代表が衆院選敗北の責任を取って12日に辞任する意向を表明する中、来夏の参院選に向けて野党の連携はどうあるべきか、本紙は3人の識者らにインタビューした。
 ―立憲民主党などの野党は衆院選小選挙区の候補者一本化で協力したが、立民は議席を減らした。
 「戦術的に野党共闘の効果が全くなかったとは言い切れない。分裂状態では小選挙区では勝てぬ、という立民の枝野幸男代表の言うことも分かる。ただ、共闘した共産党、れいわ新選組、社民党に比べ、より幅広い支持層を持っていたはずの立民から、右でも左でもない中間層の人たちの票が逃げていった」
 ―その理由は。
 「政権を取って目指すべき社会を掘り下げて有権者に提示できなかったことが、一番の敗因だ。ビジョンがない共闘は数合わせにとどまり、主要な共通項は『反自民』という印象を与えた。共産と申し合わせた『限定的な閣外協力』で中道右派はもちろん、中道左派の一部も突き放してしまった。旧民主党政権の失敗で支持が目減りしていた部分はあるが、共通政策も政権批判色が強く、魅力的な柱がないように受け止められた」
 ―立民など野党にはどんな政策が求められるか。
 「旧民主党も2009年の政権交代当時、自民政権の批判はしたが、子育て世代の支持を得るために『チルドレンファースト』に加えて『コンクリートから人へ』や『新しい公共』など、自民とは違う構想を示していた。NPOや農業、観光など、民間で公共的な役割を担っている人たちと幅広く連携していく地道な活動も求められる」
 ―立民は連合との関係が悪化し、トヨタ労組は組織内候補の擁立を見送った。
 「トヨタのようなグローバル企業は本来、財界として与党を支え、労組で野党を支える『両輪』があったが、今の野党との協力は有害と判断したのでは。立民は実利を求める層から見放されている。自公政権には不満だが、現実的に物事を回してほしいという有権者は日本維新の会か、やむなく自民に投票した」
 ―今回の衆院選を経て政権交代可能な二大政党制は遠のいたのか。
 「直ちに実現するのは困難かもしれないが、単一勢力が政権を担い続けるのは日本の民主主主義にとって不健全だ。政権交代によって政治をらせん状に改善するのが民主主義国家。自民内の疑似政権交代では(政権)独占の弊害の除去は困難で、二大政党ならずとも何らかの対抗勢力を創出し、健全な競争を生み出さなければならない」
 ―立民は政権を担う勢力になり得るか。
 「私がツイッターで『立民が終わった』と言わざるを得なかったのは、やはり共産との閣外協力。私たちが非自民、非共産と言ってきたことが覆ってしまった。政権政党への道を捨てたかのような印象を与えた」
 ―今後をどう見るか。
 「左派が協力して自民を批判していれば一定の勢力は確保できるが、中道派は忌避し、自民党勢力を安定させる新しい55年体制ができるだけだ。立民の新たな代表がもう一度、国民民主や維新の一部と連携し、非自民の共闘を新しく組み直そうとする可能性はあるが、共産との共闘を白紙にすることは困難で、分裂含みの動きとなる可能性が高い」
 ―野党共闘の見直しが必要だと。
 「共産と連携しながら、政権を担うのは難しい。中道勢力でまとまろうとすれば、左派の一部はこぼれるだろうがやむを得ない。簡単なことではないが、中道改革勢力の結集を優先させた上で、自民の非主流派までを含んだ勢力との連携が可能になれば、政権を担える大きな塊ができる」
 ―低投票率も現状維持の政治を生み出している。
 「団塊の世代などに比べて、若い世代は論争や批判を好まないし、国会の揚げ足取りを長時間見る時間はない。政治課題の多様さや深刻さを認識してもらい、与野党のどちらが立派なことを言っているかを国民に示すには、党首討論に勝るものはない。短時間の真剣勝負で、与野党がしのぎを削る姿を見せることで選択肢を示し、政治への関心を高められる」(聞き手・大野暢子)

 まつい・こうじ 1960年生まれ。東大教養学部卒。83年に旧通商産業省入省。2001年の参院選で旧民主党から出馬、当選し、2期務めた。官房副長官、参院内閣委員長、党筆頭副幹事長などを歴任。現在は慶応大総合政策学部教授(統治機構論)。一般財団法人「創発プラットフォーム」理事。

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