「ツイッター警部」第2の人生 警視庁退職 「中の人」経験生かし起業

2021年11月12日 07時06分

元「ツイッター警部」の中村健児さん(左)とニセ電話詐欺防止のキャラクターとして誕生したテワタサナイーヌ(魚眼レンズ使用)=いずれも千代田区で

 警視庁の公式ツイッターで「ゆるい」つぶやきを連発し、人気を集めた「ツイッター警部」が昨年、警視庁を早期退職し、新たな道を歩み始めた。ツイッターのアカウントの運用を請け負う会社を起業。企業や組織のツイッター運用担当者を指す「中の人」の存在は一般にも知られるようになったが、「中の人」がもっと評価されてほしい、という思いがある。
 元「ツイッター警部」の中村健児さん(57)は「テワタサナイーヌ」と一緒に現れた。ニセ電話詐欺で「知らない人にお金を手渡さない」という願いを込め、警視庁時代に中村さんが考案したキャラクターだ。
 SPの経験もある堂々とした体格が警察官だったことを思い起こさせるが、喜々として「テワタサナイーヌ」の襟を直す姿はほほ笑ましい。「人と会って話すとか電話で話すとか、ものすごく苦手。その代わり、ネット上では冗舌。いわゆるオタク気質の根暗な人間です」と生真面目に自己紹介する。
 警視庁犯罪抑止対策本部が、警視庁初のツイッター公式アカウントを開設したのは2012年11月。同本部に所属していた中村さんの提案だった。
 当初は防犯情報などを流すだけで、フォロワーは全く伸びなかった。そんな中、一つのつぶやきがネット民をざわつかせた。「みかんの汁がズボンに落ちました…」。「お堅い」イメージの警視庁ツイッターが突如、個人的な心情をつぶやき始めたことで、フォロワーは急増、2日後ぐらいに1万人を超えた。

ネットをざわつかせたツイート。ここからフォロワーが増加した

 公のツイッターで個人的な発言をしていいのか、という批判が内外で上がり、13年に一度、つぶやきを中断。しかし、フォロワーからの「やめないで」という声に押され、4日後に再開した。テワタサナイーヌが警視総監にインタビューしたり、「ニコニコ超会議」に参加したりして、話題を振りまいた。

テワタサナイーヌが描かれた警視庁のグッズや中村さんが書いた同人誌、ニコニコ超会議に参加した際の配布グッズ

 16年、警察署に異動し、「中の人」を引退した。異動直前にフォロワーは約15万人になっていた。警視庁では、ヤフーオークション詐欺を全国で初摘発したり、防犯アプリ「デジポリス」を考案したりもした。警察の仕事が好きだったが、格別やりがいがあった「中の人」を退いたことが一つの理由となり、昨年9月、警視庁を退職した。
 IT関連会社で勤務する傍ら設立したのが、ツイッターのアカウント運用請負会社「フォルクローレ」。事務員はテワタサナイーヌに変身する前の女性という設定の「天渡早苗(てわたさなえ)」さん。早速、業務委託を受け、実績のある他の「中の人」経験者が運用している。

中村さんが起業した会社の事務員「天渡早苗(てわたさなえ)」さん。仕事のやりとりはほぼチャット

 中村さんは、「中の人」を一つの職能と捉える。大きな組織の看板を背負うことが怖くない、ある意味鈍感な人でなければ務まらない。一方で、「炎上」と隣り合わせのため、発言することの怖さは分かっている必要がある。雑談を交わしながら市民と交流する「駐在所のお巡りさん」とも似ていると思い、「中の人は駐在さん」(翔泳社)という本を出版。これまでの歩みや「中の人」としての心得を伝えている。
 警視庁という大組織で新しいことに挑戦した中村さん。「無謬(むびゅう)性」を求めるがゆえ、新しいことに二の足を踏む組織に、もどかしさを感じたこともあったが、最近は柔軟になったと感じている。「後輩」たちにエールを送る。「新しいことをやると当然、あつれきも生まれるが、新しいことは絶対に楽しい。やりがいがあるので、どんどん挑戦してほしい」
 文・佐藤大 写真・伊藤遼
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