<新お道具箱 万華鏡>女流義太夫 三味線 音色を左右する駒

2021年11月12日 07時16分

女流義太夫の太夫で人間国宝の竹本駒之助(左)と鶴澤寛也=福田知弘撮影

 デーン、デーン
 慣れない手でバチを叩(たた)くと、右膝に抱えた四角い胴から下腹にビリビリと太い音が響いてくる。
 神楽坂にある女流義太夫三味線奏者の鶴澤寛也(つるざわかんや)さんのお稽古場。「弾いてみませんか」という言葉に誘われて、太棹(ふとざお)と呼ばれる義太夫用の大きな三味線を体験させてもらった。ひしゃげた正座のように両膝の間を空け、おしりを落として三味線を構える。かまぼこ板のような厚みのあるバチを教えられたように握ると、小指の付け根にバチの角が食い込んだ。イテテ…。

太棹三味線を手にする鶴澤寛也=東京・神楽坂の稽古場で

 「あ、痛いですか。それなら正解です」と寛也さんがニコッと微笑(ほほえ)む。寛也さんの指を見せてもらうと、立派なタコができていた。
 「義太夫の三味線は、歌の伴奏とは違うんです。物語の情景描写をするのが大事な仕事で、専門用語で『模様を弾く』と言うんですよ」
 太夫が悲しい場面を語っているときは、観客がそういう気分になるような音色を奏で、太夫の語りを増幅させる。
 三味線は、弾き始めるまでの準備に手間がかかる。演目、太夫の好みなどのほか、胴に張った皮の状態、その日の天候をも考慮して、楽屋で弾き手自身があちこち触ってチューニングをしていく。
 調整のメインは糸(弦)だが、糸と皮の間にはさんだ駒も重要。バチを糸に当てて弾くと、その振動は皮が張られた胴に伝わって音になるが、糸と胴をつないでいるのが駒。音色を左右する重要なパーツなのだ。

三味線の糸と皮の間に装着した駒。糸(弦)は絹で作られている

 駒は、糸をキューッと持ち上げて、皮との間に挟みこむようにして装着する。
 「駒には、鉛の重りが入っているんですよ。重さの違いで音の高さが変わるので、ちょっとずつ違う重さの駒を持っていて使い分けています」と寛也さん。

三味線の駒。裏側には鉛が流し込まれ、鉛が取れないようにひっくり返した状態で収納されている。寛也さんは26種類の駒を持っているという

 雨の日は、皮が湿気を吸ってへたるので、軽めの駒を選ぶそうだ。
 義太夫の三味線は、メロディーではなく、一つの音だけをポーンと聴かせることもある。そこで、はたと涙することも。「一音で、どれだけ表現できるか」を寛也さんは追求し続けている。
 女流義太夫の演奏会は人形を伴わない。その分、太夫と三味線に集中できる。太夫の語りに三味線がどんな音色を添わせているか。短く弾く、小さな一音に集中しながら聴いてみるのも楽しいかも。(伝統芸能の道具ラボ主宰・田村民子)

◆公演情報

「女流義太夫と上方舞の世界」
 十二月十一日午後二時開演。東京都千代田区の紀尾井小ホールで上演予定。義太夫「珠取海女(たまとりあま)」=舞・山村若静紀、浄瑠璃・竹本越孝、編曲と三味線・鶴澤寛也、作調と鳴物・望月太左衛。ほか三曲。予約はカンフェティ・チケットセンター=0120・240540。

◆取材後記

 寛也さんは「義太夫は最高に面白い」とおっしゃる。私もそう思う。だけど、最初のうちはどう聴いていいのか、全然わからなかった。そういう時期に出合ったのが橋本治さんの著作「義太夫を聴こう」。寛也さんも対談などで登場される本で、これを読むと義太夫の手がかりが見えてくる。三味線体験もおすすめで、小指の痛さを忘れて熱中した。寛也さんのHPには、お稽古情報もありますよ。 (田村民子)

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