格差の現実か、悪ふざけか…無料サービスに頼り21日間生活 中国で芸術家の映像作品が議論呼ぶ

2021年11月12日 17時00分
 北京の芸術家、鄒雅琦すうがきさん(23)が、芸術系の名門大学「中央美術学院」の卒業制作として、一銭も使わずに21日間生活する様子を映像にまとめた。頼ったのは、鄒さんが社会の「余剰物質」と呼ぶ無料サービス。北京では富裕層を対象にしたこの種のサービスがあふれる一方、貧困層は日々の暮らしにあえぐ。そんな「貧富の格差」がテーマの作品はネット上で話題となったが、「無銭飲食の悪ふざけだ」と非難も浴びた。(北京・中沢穣)

大型家具店「イケア」の展示用ソファで眠る鄒さん=いずれも作品の映像から(鄒さん提供)

◆法を犯さない、買い物をしない、労働をしない

 映像は、偽ブランド品で着飾って「セレブ」のふりをした鄒さんが、スマートフォンで自撮りした。空港のファーストクラス用待合室に入り、高級ブランド店の紙袋に無料の菓子を詰める。ソファで眠り、多目的トイレで身体も洗う。髪を乾かすのは備え付けのハンドドライヤーだ。

大型家具店「イケア」でくつろぐ鄒さん


 さらにホテルのロビーや大型家具店イケアなどを転々とし、無料のスナックを食べて展示用ソファで睡眠をとる。高級ホテルで開かれたオークション会場では「1000万元(約1億8000万円)近い」というブレスレットを試着し、無料のチョコレートケーキを食べた。
 法を犯さない、買い物をしない、労働をしない、などを原則とした。一方で「(企業などの設けた)ルールの違反」には目をつぶった。空腹には悩まされ、無料のコーヒーに大量の砂糖を入れるなどして必死にカロリーを摂取したためか、体重は逆に増えた。「修行のようだった。とても疲れた」と振り返る。

◆「無料のものはたいてい裕福な人に配られる」

 湖南省の「普通の中産階級の家庭」出身の鄒さんは、「中央美術学院実験芸術社会性芸術」を専攻。入学当時から「卒業後は就職できず食べていけないのでは」と考えていたといい、卒業制作のテーマに「社会的プレッシャー」を選んだ。「社会の『余剰物質』の分配のされ方に興味をもっていた。そういう無料のものはたいてい、すでに裕福で満ち足りてみえる人に配られる」と話す。

ホテルのロビーでくつろぐ鄒さん

 どこで無料の食べ物が入手できるかを調べ、「セレブ」の立ち居振る舞いも研究するなど準備に半年を費やした。「セレブを演じなければ、(金を使わずに)生きていけない。北京にはホームレスが生きられる余地はほぼない」と語る。作品は「資本至上主義への抵抗」でもあるという。

◆批判には政権のスローガンで返す

 9月に28分間の映像がネット上で発表されると、鄒さんの名前は一時、中国の会員制交流サイト(SNS)「微博(ウェイボ)」の話題ランキングで1位に入った。好意的な評価も多かったが、「ルール違反のいたずら」「善意の悪用」などと批判も激しかった。
 鄒さんは批判を受けて声明を出し、「貧富の格差や社会階層の固定化は一時的な問題であり、いずれ『共同富裕(ともに豊かになる)』に向かう」と習近平しゅうきんぺい政権が掲げるスローガンで釈明。言論統制が厳しい中で、作品が政府批判と受け止められないための配慮がにじむ。
 批判もあったが「話題性がなければ作品は見てもらえない」と前向きな鄒さん。卒業制作が評価されたことで、今夏の卒業後は芸術家のマネジメント会社と契約を結んだ。

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