ゴッホの純粋、時を超え ゴッホ展に多数出品 クレラー=ミュラー美術館 新館増築を担当・安藤忠雄さん

2021年11月12日 13時46分
 東京都美術館で開催中のゴッホ展に、多くの作品を出展しているオランダのクレラー=ミュラー美術館。その新館の増築計画を担当する建築家安藤忠雄さんに、同美術館の意義やゴッホの魅力を語ってもらった。

閑野欣次撮影

 クレラー=ミュラー美術館は若い頃から「世界で最も美しい美術館」の一つとして意識していたので、増築計画を依頼された時は本当に驚いた。
 初めて訪れたのは、二十代後半の世界旅行の折で、大変感動した。緑深い森の中、柔らかな光に包まれ、生き生きとゴッホの世界が息づいている。自然環境と一体となり、呼吸する建築の原型の一つだと思う。
 一九三八年に開館したこの美術館のオリジナルは、モダニズム黎明(れいめい)期の建築家ヴァン・ド・ヴェルドの設計だ。その後、戦争を挟み、六一年に隣接する彫刻庭園が完成。六五年にリートフェルトのパビリオン、七七年にヴィムG・クイストによる新館、二〇〇六年にアルド・ファン・アイクのパビリオン…と、数十年もの歳月をかけ、生物が増殖するように、ゆっくりと断続的な拡張を重ねてきた。そんな世代を超えた「創造のリレー」の結果として、芸術と自然、建築とが一体となって響き合う、今日の美術館の姿がある。スクラップ・アンド・ビルドの現代建築には、つくり得ない風景だ。

クレラー=ミュラー美術館の入り口付近 ©Kröller-Müller Museum,Otterlo, the Netherlands

 そこに現代の建築家として参画する、今回の増築計画にはいつにない緊張感を持って取り組んでいる。受け継がれてきた精神、育まれてきた場所の空気に敬意を払いつつ、まずは必要十分な機能的拡充を図る。その上で、先人たちの残した空間に呼応するような現代の「しるし」を残したい。
 ゴッホは、それまでの絵画が<美しさ>を描くためにあったのに対し、自分の心の目で見た世界を、自分の身体の欲する表現で、ただ純粋に描き続けた。純粋過ぎて、時代にはなじまなかったのだろう。しかし、だからこそ、ゴッホの作品は今もまだ<生きて>いる。
 クレラー=ミュラー美術館で観(み)た中で印象深い作品の一つが「糸杉」を描いたもの(ゴッホ展で「夜のプロヴァンスの田舎道」を展示中)だ。シンプルな自然のモチーフの分、ゴッホの手の痕跡、息遣いが強く感じられ、まるで<部分>に生命が宿っているようだ。生きること=描くことだったゴッホが故の<部分>の生命力。その重なりが、<全体>の画に圧倒的な力を与えている。部分と全体の理想的な関係、このテーマは建築の表現にも通じる。
 また、「ジャガイモを食べる人々」(習作のリトグラフを展示中)は、生きるために人が食べる当たり前の姿。命の逞(たくま)しさのようなものが、ストレートに伝わってくる。ゴッホは「ジャガイモを食べる人々がその手で土を掘ったということが伝わるように努めた」そうだ。普遍的なものを描いているから、時を超えて観る者の心に響くのだろう。
<あんどう・ただお> 1941年、大阪生まれ。独学で建築を学び、69年に安藤忠雄建築研究所を設立した。エール、コロンビア、ハーバード大の客員教授を歴任。97年から東京大教授、現在は名誉教授。代表作に光の教会、地中美術館など。95年、「建築界のノーベル賞」と言われるプリツカー賞を受賞。
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 「ゴッホ展――響きあう魂 ヘレーネとフィンセント」(東京新聞など主催)は、東京都美術館で12月12日まで開催。11月15日と12月6日は休室。日時指定予約制。当日券あり(売り切れ次第終了)。問い合わせはハローダイヤル=電050・5541・8600=へ。

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