コロナ対策の「切り札」?飲み薬に高まる期待 米製薬大手「効果」強調、「根治」に懐疑的な声も

2021年11月13日 06時00分
 12日にまとまった政府の新型コロナウイルス感染症の「第6波」対策で、飲み薬が1つの柱とされ、160万人分確保が盛り込まれた。米製薬大手のメルクとファイザーは、新しく開発した飲み薬が臨床試験で高い効果を発揮したと発表。感染初期に飲めば重症化を抑えられるといい、現場の医師も「有効な飲み薬ができれば、コロナをインフルエンザ並みと考えられる日が来るかもしれない」と話す。一方で過大な期待を戒める声もある。(森耕一)

◆ウイルスの増殖を妨害

 両社の飲み薬はウイルス増殖を抑える働きがあり、抗ウイルス薬と呼ばれる。コロナウイルスは細胞に侵入し、遺伝物質のRNAをコピーして増殖する。
 メルクが開発したモルヌピラビルはRNAのコピーの邪魔をする。同社は入院、死亡リスクが半減したとの臨床試験結果を発表。英国が4日に承認した。ファイザーが開発したパクスロビドは、ウイルスの部品となるタンパク質が作られるのを妨げる。臨床試験で重症化を89%抑えたという。
 いずれも、陽性が確定した段階で患者に渡して自分で飲んでもらえる。抗ウイルス薬は感染初期に投与しないと効果が薄い。重症者の治療を続けるかわぐち心臓呼吸器病院(埼玉県川口市)の竹田晋浩医師は「陽性を確認してすぐ手渡せる体制をつくることが重要だ」と指摘。すぐに結果の出る抗原検査を活用するのも1つの方法だという。

米メルク社のモルヌピラビル(Copyright © 2009-2021 Merck Sharp & Dohme Corp., a subsidiary of Merck & Co., Inc., Kenilworth, N.J., U.S.A. All rights reserved.)

◆政府は調達加速、「160万人分」確保

 新型コロナの治療薬は決め手を欠いてきた。承認された抗ウイルス薬のレムデシビルについて竹田医師は「効いているのかよく分からない」と打ち明ける。ステロイド剤のデキサメタゾンも炎症を抑える薬で、中等から重症患者への対症療法という側面が強い。
 今年になって、人の抗体を利用した治療薬(抗体医薬)が承認された。「感染初期に投与できれば効く」ものの点滴が必要なため、竹田医師は「点滴のために、患者が増えたときベッドが使えないのは厳しい」と飲み薬の使い勝手の良さを強調する。
 それだけに飲み薬への政府の期待は大きい。岸田文雄首相は「国民が安心して暮らすための切り札」と話す。日本での薬事承認前なのに、既に160万人分を調達することでメルクと合意。国産の飲み薬の開発に20億円の支援も決めた。
 国内では、塩野義製薬が飲み薬を開発する。ウイルスがタンパク質を作るのを妨害する。9月末から最終段階の臨床試験を始めた。ワクチン開発では海外勢に大きく遅れた。飲み薬も米大手が広く市場を奪いかねず、同社も開発を急いでいる。

◆専門家「現時点はワクチンが対策中心」

 ただ、飲み薬頼りになることを警戒する声も。大阪大の宮坂昌之招へい教授は「抗ウイルス薬で根治できている感染症は少ない。C型肝炎とヘルペスくらいだ」と指摘する。細胞内に十分な量の薬を届けるのが難しいことや耐性ウイルスができやすいことなどが背景にあるという。
 インフルエンザでは、期待の新薬にすぐ耐性ウイルスが出て、翌年にはあまり使われなくなった例もある。宮坂教授は「もちろんいい薬だとわかれば素晴らしいが、既にワクチンと抗体医薬が高い効果を発揮している。現時点ではあくまでこちらが対策の中心だ」と強調する。

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