タリバン 復権の真実 中田考(なかた・こう)著

2021年11月14日 07時00分

◆偏見覆す武装集団の清廉な統治
[評]宮田律(現代イスラム研究 センター理事長)

 八月に「反政府武装勢力」タリバンがあっという間に、アフガニスタン全土を呑(の)みこむように、政権を奪取した。
 著者は、その根本要因をタリバンが出身部族のパシュトゥーン地域だけでなく、他の民族集団の部族長たちの支持を得るのにも成功したと説明する。人心の掌握が巧みなタリバンは、単なる武装集団ではなかった。
 他方で、米国が戦争でつくったアフガン政府は、一九九〇年代に互いに殺戮(さつりく)を繰り返し、犯罪活動を経済基盤とする、国土の荒廃を招いた軍閥の寄せ集め集団だった。
 政府は腐敗し、権力闘争に明け暮れ、統治能力を喪失し、国民の支持を失い、タリバンの復権は、著者にとっても早い段階から予想されていた。米国の政策の破綻は明白だったが、戦争による利益を考えていた米国の軍産複合体などが駐留の継続をもたらしたというのが本書の説明だ。
 米国がアフガン政府を見限っていたことは、タリバンの首都カブール進撃に際して米軍に政府を守ろうとする姿勢がまったく見られなかったことからも明白だった。
 著者によれば、タリバンは「ウラマー(イスラーム学者)の指導する正当なイスラーム国家を建設することの自負心を抱いている」が、米欧諸国が主張するタリバンによる女性の人権侵害も「西欧の偏見」と著者は一蹴する。一般に伝えられるタリバンとは異なるイメージを本書は提供する。実際、女性は庇護(ひご)奉仕されるべき存在というタリバンのフェミニズムも示されている。
 タリバンはイスラーム法に則(のっと)った清廉な統治を目指し、本書ではタリバンの思想と組織も翻訳されて紹介される。従来日本語では知ることがなかったタリバンの思想と行動を包括的に理解できる内容だ。
 タリバン復権後、その統治下の経済的苦境が伝えられるようになった。タリバン理念の実現を「行く手は険しくとも主の加護と導きを祈りたい」と著者は語るが、国際社会にはタリバンの主張を理解し、アフガン国民のために早急で、必要な支援が求められていることを本書は教えている。
(ベスト新書・990円)
1960年生まれ。イスラーム法学者。『イスラームの論理』など。

◆もう1冊

前田耕作・山根聡著『アフガニスタン史』(河出書房新社)。文化・民族・政治史。

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