「人材」の表現に違和感 高校生の投稿きっかけに考える 人は「材」か「財」か 来月、国語辞典に「人財」初収録

2021年11月14日 06時00分
 来月、8年ぶりに全面改訂される三省堂国語辞典に「人財」という言葉が初めて収録される。「人材」の「材」を財産の「財」に置き換えた造語で、最近は求人サイトや企業トップのメッセージなどでも見かける。いまなぜ「人財」なのか。言葉の意味を掘り下げつつ、その背景を探った。(須藤恵里)

◆「材」にモノ扱いの冷たさ

2021年9月17日付「若者の声」欄に掲載された投稿

 取材の発端は、本紙「若者の声」欄への投稿だった。東京都江戸川区の高校2年生、米川純平さん(16)。進路を考える中で「人材」という言葉に触れることが増え、「働く人をモノ扱いするような冷たさを感じた」という。投書が掲載されると、賛同する意見が複数届いた。
 そもそも「人材」とは何か。三省堂国語辞典(第7版)を引くと、「はたらきのある、役にたつ人物」とある。同辞典編集委員の飯間浩明さんは「逸材」「適材」を例に挙げ、「『材』は才能の意味。悪い意味はない」と解説する。
 一方、「高校生の意見は当然の感覚」と話すのは、経営者向けに「経営人財塾」を開講する「人を大切にする経営学会」の坂本光司会長だ。「働く人をコストと位置付ける企業の考え方の表れ。働く人をかけがえのない財産と考える『人財』の意識がもっと広がるべきだ」と説く。

◆「財」に社員への思い込め

 部署名に「人財」を使う企業もある。SOMPOひまわり生命保険(東京)は5年前、「人事総務部」と「能力開発部」を統合し「人財開発部」と命名した。邨上英彰部長は「社員1人1人の成長が会社のパワー。社員を大切に考えているという会社の思いを込めた」と意図を説明する。
 トップコメントなどで「人財」の表現を使うトヨタ自動車。人事部人材育成室の笹山義之室長は「全社員の可能性を信じ、1人1人の思いを尊重することを企業理念に掲げている。学歴や性別など、可能性を阻害する壁を取り払い、全社員が活躍できる場をつくることが会社の使命」と話す。

◆大事なのは字面ではなく

飯間さんが2012年に見つけた「人財大募集」の看板(飯間さんのツイッターより転載)

 三省堂国語辞典編集委員の飯間さんは9年前、都内の居酒屋の店先で初めて「人財」という言葉を見た。「なかなか良いなと。財産の財はわかりやすく、『人材』より『人財』を好む流れも理解できる」と認める。同辞典第8版のキャッチコピーは「ことばで写す時代(いま)」。時代の変化に合わせ、「人材」の項に今回初めて「『財産である人』の意味で『人財』とも」と加筆した。
 若者の雇用問題に取り組むNPO法人「POSSE」の今野晴貴代表は、高校生の声に「かつては、会社が成長するために社内で育てるのが『人材』だったが、今はコスト削減のためにいつ切り捨てられるか分からず、人材になるのが怖い時代」と寄り添う。
 「人財」を使うトヨタ自動車でも、パワハラ自殺は起きている。今野さんは「使いつぶしの経済から脱却できない限り、どんな言葉を使おうが、若者が生きづらさを感じる状況は変わらないのでは」と指摘する。
 冒頭の高校生、米川さんにこれらの見方を伝えると、「役に立つか否かで人間をとらえることに違和感を感じていた。人は無条件に価値がある存在だと、自分は思う」と思いを語った。

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