<社説>京都大霊長類研 「事実上の解体」を憂う

2021年11月16日 07時27分
 京都大が霊長類研究所(愛知県犬山市)の改編を決めた。論文や研究費を巡る不正を受けての措置だが、外国にまで響いた霊長類研の名前は消え「事実上の解体」と言われる。大学や地元の誇りでもあった研究所の学術水準が下がることはないのか、懸念が残る。
 同研究所は一九六七年の設立。元所長の松沢哲郎氏によるチンパンジー「アイ」=写真(右)=の実験など、先進的な研究で名をはせる。だが京大は二〇二〇年、施設工事で研究費の不正があったとして松沢氏らを懲戒解雇した。さらに今年十月、正高信男元教授(昨年定年退職)の論文計四本を捏造(ねつぞう)と発表し、撤回を求めた。
 こうした事態を受けて、京大は十月に研究所の改編を発表した。研究所の十二の部門とセンターのうち(1)不正のあった二部門を含む三部門は廃止(2)四部門は学内の別機関に移管(3)残る五つの部門とセンターは来春「ヒト行動進化研究センター」(仮称)に移行する、との内容だ。
 研究所には今、常勤の教職員が六十人ほどいる。大学は来春以降の態勢を「現状から大きく変わるものではない」とするが、設立の段階から携わって、所長も務めた杉山幸丸同大名誉教授は「日本の霊長類学を衰退させる」と語る。京大に方針撤回を求める学者らはネット署名の活動も始めた。
 もちろん不正は決して許されることではないが、松沢氏は「私的な流用はない」と主張し、解雇の無効などを大学側に求める訴訟も起こしている。ことの詳細が法廷で明らかになるよう望む。
 そもそも研究費の不正も論文の不正も、一義的には研究者個人の責任だ。その責めを組織の全体に負わせて解体的な改編に踏み切ることは、いささか乱暴にも映る。たらいの水を流して赤ん坊までも流すような結果とはならないか。
 かねて日本の学術予算は、額が少ない上に使いにくいとされる。優れた研究者が外国に移る「頭脳流出」も深刻だ。そうした中で、国内トップ級の研究所を事実上の解体とする今回の処分が、研究者たちの意欲の低下や活動の停滞につながらないか、憂慮する。

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