裁判が終わって深まる遺族の悲しみ… 池袋暴走事故、松永さん「心を取り戻していく上で、たぶん大事な時間」

2021年11月19日 06時00分

莉子ちゃんのリボンのおもちゃを手に、笑顔で思い出を語る松永拓也さん=東京都豊島区で

 東京・池袋で2019年4月に起きた乗用車暴走事故で妻子を亡くした遺族松永拓也さん(35)は、刑事裁判が終わった後、2人を失った悲しみを深めている。長女莉子りこちゃん=当時(3つ)=が生きていれば、まもなく小学生だったのに―。裁判の準備作業から解放され、2人に思いをはせる時間が増えたことで、今まで考えずにいたことが頭をよぎる。(福岡範行)

◆結審しても戻ってこない2人

 喪失感には、何げない瞬間に襲われるという。「莉子が好きだった公園のブランコを見たときや、ドラマのせりふとかも死別とひも付けちゃって」。裁判後につらくなるとは覚悟していたが、人に見えないところで涙を流している。
 急な気持ちの落ち込みは、一周忌直後に不眠や手の震えが表れたときに似ているという。当時は、事故の発生時間に現場で手を合わせたとき、2人の死の瞬間を細かく想像したのがきっかけだった。
 松永さんは、2人の死を「初めて、本当の意味で現実的に感じたかもしれない」と振り返る。一周忌までは、写真を見ないと2人の顔をなかなか思い出せなかったが、それも「心を自分でまひさせていた」からだと気づいた。向き合っているつもりでも、無意識に封印している感情があることを知った。
 事故から1年半後に東京地裁で始まった刑事裁判は今年9月2日、運転手に禁錮5年の実刑判決が言い渡され、2週間後に確定した。松永さんは確定後の記者会見で「ようやく終わって安堵あんどの気持ち」と語る一方、2人の命が戻ってこないむなしさも明かしていた。

◆やっと手を付けた遺品の整理に…

 それから1カ月半たった10月30日、松永さんは、事故当時のままにしていた2DKの自宅の片付けを始めた。事故後は近くの両親の家で暮らす。自宅の片付けは考えていたものの、部屋にある品々に触れると、幸せな日々を思い出し、手を付けられずにいた。

真菜さんが手作りしたヘビのおもちゃが壊れ、表情を曇らせた松永拓也さん

 翌31日、押し入れから出した段ボールが並ぶ自宅で、松永さんは莉子ちゃんのおもちゃのリボンを手に取った。マスク姿でも分かる笑顔。口からは「夏祭りで買って、莉子が笑いながら…」と思い出話が次々あふれた。妻真菜まなさん=当時(31)=が手作りした、勢いよく伸びるヘビのおもちゃは、松永さんが動かすと輪ゴムが切れた。「物って、こうやって壊れるから、切ない…」。表情は一気に曇った。

◆だから、事故は起きちゃいけない

 「情緒不安定になりますよね」。取材した30分ほどの間にため息が10回。松永さんは硬い表情で「だから、事故は起きちゃいけない」と力を込めた。
 何年後かにまた、さらに深い悲しみを感じるかもしれないとも思っている。「心って底がないというか。今が底か、僕自身分からない」。感情の変化はその都度、受け入れるつもりだ。「僕が生きていく、心を取り戻していく上で、たぶん大事な時間」だと考えて。

 池袋暴走事故 旧通産省工業技術院の飯塚幸三元院長(90)が2019年4月19日正午すぎ、豊島区東池袋4の都道で、ブレーキと間違えてアクセルを踏み続けて時速約96キロまで加速し、赤信号を無視して交差点に進入。横断歩道を自転車で渡っていた近くの松永真菜さん=当時(31)=と長女莉子ちゃん=当時(3)=をはねて死亡させたほか、通行人ら男女9人に重軽傷を負わせた。今年9月2日、東京地裁で禁錮5年の実刑判決が出され、確定した。

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