脱「昭和スタイル」進むか? 望まぬ転勤・単身赴任に見直しの動き 共働き増え、働き方に変化

2021年11月19日 06時00分
 望まぬ転勤や単身赴任の見直しを進める企業がIT系を中心に増えている。各地で経験を積ませて社員の成長につなげることなどが転勤制度の意義だが、育児や介護など生活環境の変化で、転勤が困難になる社員は少なくない。離職防止や働きがいにつながるとの判断から、転勤の廃止や猶予期間を設ける会社が出てきた。コロナ禍で進むテレワークも見直しを後押ししている。(嶋村光希子)

◆家族のために働いているのに…

 「サラリーマンの宿命とはいえ、働くモチベーション(動機づけ)は家族のため。離れていたら、何のために働いているのか分からなくなった」
 富士通で総務を担当する豊田直之さん(38)は単身赴任時を振り返る。2017年、埼玉県に自宅を購入した直後に大阪府へ転勤。その後、仙台市に異動した。この間、共働きの妻は1人で幼い2人の子どもの育児を担ったが、負担が重く退職。二重生活は家計を圧迫し「転勤はデメリットしかなかった」と振り返る。

埼玉に住みながらテレワークで仙台での仕事をする豊田さん。自宅や富士通の最寄りのオフィスで働く=埼玉県内の富士通オフィスで

 単身赴任生活が3年を過ぎた20年7月、社内で望まぬ単身赴任を解消する方針が出た。富士通の人事担当者は「望まない転勤をなくすことで、社員のエンゲージメント(やりがい)が高まる」と説明する。
 豊田さんはすぐに埼玉に戻ることを希望。同11月から家族と暮らしながら、テレワークと出張を組み合わせて仙台での仕事をこなす。「子どもの成長を近くで見られ、仕事のやりがいも増した」と豊田さん。富士通は、これまでに単身赴任者4000人のうち1000人の解消を実現させた。

◆「転勤で退職考える」6割も

 NTTも9月、転勤や単身赴任を原則廃止すると発表。澤田純社長は「(転勤が当然という)『昭和スタイル』を続けていると、社会の公器として良くない」と話す。JTBやカルビーなども解消を進める。
 転勤制度には、社員に幅広い地域で経験を積ませる人材育成や、組織のマンネリ化や癒着の防止といった狙いがある。一方で家族や親しい人との「分断」を生みかねず、夫婦共働きが専業主婦世帯の2倍以上に上る現在、敬遠する動きが出始めている。
 転職サービスのエン・ジャパンの調査(19年)によると、「転勤は退職を考えるきっかけになる」と答えた人が6割に上った。優秀な人材を確保するため、企業側が転勤制度の見直しに動きだした。新型コロナの流行をきっかけにした場所を選ばないテレワークの広がりも影響している。

◆「現場」職種は進まず

 現時点で転勤制度を見直すことができるのは、テレワークが根付くIT系の大企業が中心で、製造業や流通、サービスなど「現場」がある職種での廃止は進んでいない。ある食品メーカーの関係者は「地域ごとに売れ筋や物流の仕組みが異なる。地元に住み、文化を体感することが重要」と、転勤の意義を語る。
 だが、日本生産性本部の東狐とうこ貴一主席研究員は「会社から一方的に告げられた人事では自分がどうなりたいかを考えられず、イノベーション(革新的な価値)を生まない」と指摘。
 転勤可能な社員への手当加算や勤務地を限定する制度など、多様な事情を持つ社員の納得感を高める工夫をし「転勤が何のための制度か、企業が戦略的に再構築すべき時だ」と話す。

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