<中村雅之 和菓子の芸心>「味噌松風」(京都市・松屋常盤) 能の人気曲から命名

2021年11月19日 07時25分

イラスト・中村鎭

 全国各地に「松風」という和菓子があるが、大きく分けて、瓦煎餅状のものとカステラ状のものがある。
 前者で独特なのは、方言で「マチカジ」という沖縄の「松風」。白ゴマがふり掛けられた鮮やかな紅色の細い瓦煎餅状のものを、捻(ねじ)って結び切りにしてある。「松風」としては珍しく味噌(みそ)味ではない。
 白ゴマは「子孫繁栄」、形は「縁を結ぶ」を意味していて、祝いの席には欠かせない。「沖縄ドーナツ」といわれる「サーターアンダギー」、衣だけを揚げた天ぷら「カタハランブー」と一緒に盛られる。
 後者の代表で、王道を行く味が、京都御所近くにある「松屋常盤」。京都ならではの「西京味噌」と小麦粉を練り合わせ、しっかりと焦げ目が付くまで焼き上げた表面に黒ゴマが散らしてある。
 室町時代の大徳寺五十七世住持が、能の「松風」に因(ちな)んで名付けたと伝えられる。平安時代、都から下り、須磨で蟄居(ちっきょ)していた貴族在原行平(ありわらのゆきひら)が愛した海女の姉妹の霊が現れて、かつてを偲(しの)び舞うという曲。その姉の名が「松風」という。
 「熊野(ゆや)」と並び、「熊野、松風に米の飯」と言われたほど、頻繁に演じられる人気曲だった。
 松屋常盤は、江戸時代初期の創業。御所の出入りを許され、「山城大掾(だいじょう)」の「受領名」を持つ。「受領名」は、御所へ出入りを許された商人や芸能の非公式の官職。これを受けることは名誉とされた。
 近代を代表する文楽の大名人・二世豊竹古靱太夫(とよたけこうつぼだゆう)は、戦後、秩父宮家から「山城少掾(しょうじょう)」を授けられた。 (横浜能楽堂芸術監督)
<松屋常盤> 京都市中京区堺町通丸太町下ル橘町83。(電)075・231・2884。900円。

汐(しお)を汲(く)む能「松風」のシテ・海女松風(観世銕之丞)=神田佳明撮影

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