東京の古本屋 橋本倫史(ともふみ)著

2021年11月21日 07時00分

◆店主の気質が「個性」作る
[評]木村晃(サンブックス 浜田山店長)

 仕事、生活とあらゆるものが様変わりしてしまった二〇一九年末から二一年。東京の古本屋にも休業要請が発出され揺れ動くなか、フリーライター橋本倫史氏が十軒の古本屋の店主と過ごしたそれぞれの三日間の取材記録だ。
 橋本氏は「10軒あれば10通りの古本屋があるということだ。棚の並びや扱うジャンルが違うのはもちろんのこと、たたずまいや流れる空気も店ごとに異なる。人の気質が店を作る」とつづっている。
 ここに紹介されている古本屋は、店舗、ネット通販、その両方と販売形式も違えば、半世紀以上古本業界に携わっている老舗店から、昨年開業したばかりの新規店など多種多様だが、どの店主にも共通するのは、どう並べたら、どんな本を仕入れたらと思案し、常に棚を触っていることだろう。それぞれの店主との会話に加え、仕事の合間での食事の様子や、仕事中に流されているラジオ番組、曲、ニュースなどが描写されることによって、店主の嗜好(しこう)やひととなり、店の醸し出す雰囲気が伝わってくる。
 本を売ることを生業(なりわい)にするという定義でいえば本屋も古本屋も同じであるが、そこに至る過程には大きな違いがある。本屋は基本的には販売したい本を出版社に発注すれば取次を通して仕入れることができる。かたや古本屋の仕入れ方法は大きく分けて二通りある。ひとつはお客さまからの買い取り。もうひとつは古書組合で開催している市場(入札方式と振り市)だ。いずれにしても希望する本だけを仕入れられるわけではない。
 買い取りに関しては一般の方にもなじみがあるが、市場での取引がどのように行われているかを知る人は少ないだろう。どのような取引が行われているかは本書を読んでいただきたいが、古本というアナログな商品を扱うなかで、人と人とのやりとりで取引が成立する市場という場所が私にはとても魅力的に感じた。
 これを機に古本屋巡りしてみるのも面白いのではないだろうか。きっと自分の好奇心を刺激してくれる店に出合えるはずだ。
(本の雑誌社・2200円)
1982年生まれ。ライター。『市場界隈 那覇市第一牧志公設市場界隈の人々』など。

◆もう1冊

野呂邦暢著『野呂邦暢 古本屋写真集』(ちくま文庫)

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