橘の起源は沖縄 シークヮーサーと共通の親 沖縄科学技術大学院大など調査

2021年11月21日 06時00分
 奈良時代に編さんされた古事記で、海のはるか向こうにある理想郷「常世とこよの国」から伝わったとされる日本古来のかんきつ類・たちばな。そのルーツが沖縄にあることが、沖縄科学技術大学院大(沖縄県恩納村)などの調査で分かった。日本最古の書物の記述と科学的研究の成果が1300年の時を経て重なる形となり、専門家は古代史のロマンに思いをはせる。(増井のぞみ)

ゲノム解析で分かった橘の親子関係


 
 古事記では、垂仁天皇の命を受けた田道間守たじまもりが常世の国に渡って、永遠に香る木の実「非時香菓ときじくのかくのこのみ」を持ち帰り、この実が橘に当たると記述している。

◆500円玉や文化勲章にも

色づいた橘の果実=東京都の板橋区立赤塚植物園で

 橘は日本に初めて伝来したかんきつ類とされる。平安時代には京都御所の庭に植えられ、現在も500円玉や文化勲章に枝葉付きの果実や花が描かれるなど古今にわたり親しまれている。最近の研究では、日向夏ひゅうがなつ黄金柑おうごんかんなど食用かんきつ類4種の親であることも分かった。ただ、そのルーツは長い間不明とされていた。

新しい500円玉。橘の枝葉付きの果実が左右に描かれている=財務省ウェブサイトから

 沖縄科学技術大学院大などの国際研究チームは4年ほど前から、同様にルーツが不明な沖縄古来のかんきつ類・シークヮーサーの起源を探ってきた。
 ゲノム(全遺伝情報)を解析する手法を用いた結果、沖縄の野生のかんきつ類「タニブター」が、橘とシークヮーサー共通の親に当たる新種と突き止めた。一方、シークヮーサーのもう片方の親が別の沖縄の野生種「勝山イシクニブ」であることも判明。成果は7月に論文として発表した。

◆専門家「沖縄からの南ルートで日本伝来を裏付け」

 農研機構カンキツ研究興津おきつ拠点(静岡市)の清水徳朗・上級研究員は「かんきつ類は約900万年前にインドから中国にかけての地域で発生し、世界中に広がったと推定される。橘の日本への伝来は、朝鮮半島からの北ルートや沖縄からの南ルートが考えられたが、南ルートと裏付ける重要な発見だ」と意義を語る。

杉本親要さん

 古事記に詳しい千葉大の三浦佑之すけゆき名誉教授は「架空の世界と考えられる常世の国から持ち帰られたという橘の起源が、科学的に証明されたのは興味深い」と評価。「古代人は、食べると永遠の命を手にできるという常世の実を橘に重ね、南方の世界を常世の国と思い描いたのではないか」と想像を膨らませる。
 
沖縄科学技術大学院大で研究に携わった杉本親要ちかとしさん(現・慶応大助教)は「橘のもう片方の親は、アジア大陸のかんきつ類の仲間と推定される。今後さらに調査を進め特定したい」と話す。

 <橘>ミカン科の常緑樹で、ニホンタチバナ、ヤマトタチバナとも呼ばれる。本州の静岡県以西や、四国、九州などの太平洋岸近くに自生し、5月ごろ白い5弁の花が咲く。初冬に熟れる果実の直径は3センチほど。花と果実は芳香を放つ。果実は酸味が非常に強いため、主に観賞用とされる。果汁は調味料、果皮は薬や香料に使われてきた。東京都内では皇居東御苑(千代田区)や板橋区立赤塚植物園などに植えられている。



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