<トヨザキが読む!豊﨑由美>『朝倉かすみリクエスト!スカートのアンソロジー』 膝打ちまくり 粒ぞろい9編 読書の幅を広げる

2021年11月22日 07時13分

『朝倉かすみリクエスト!スカートのアンソロジー』 光文社・1760円

 アンソロジーは愉(たの)しい。いろんな個性が味わえるだけでなく、未知の作家の魅力を発見できて、読書の幅を広げることができるから。今おすすめしたいのが、光文社から出ているリクエスト・アンソロジーのシリーズです。一人の作家がテーマを決め、それに沿った新作を好きな小説家たちに書いてもらう。「この手があったか!」と膝を打つ好企画といえましょう。
 そのシリーズ最新の一冊が、『平場の月』などで知られる朝倉かすみによる『スカートのアンソロジー』。朝倉さんと、彼女が好きな作家(佐原ひかり、北大路公子、佐藤亜紀、藤野可織、高山羽根子、津原泰水、吉川トリコ、中島京子)の作品が九編収録されているのですが、これがもう粒ぞろい。秀逸なテーマに応えて「そうきますか!」と膝を打つ発想で展開する物語が、それぞれの読みごたえを備えて素晴らしいんです。
 亡くなった友人が遺(のこ)した、勤続三十三年の会社ではいてきた9号から15号サイズへと至る制服のスカート。スカートをはいて登校するようになった彼氏。七十歳の独居老人である<私>の視界を時折かすめる、存在するはずのない、ふわりとしたシルエットを広げて回るスカートの裾。痴漢男どもの手を食いちぎるスカートの歯。おばあちゃんの形見のスカートをはいて走って県の学年記録を更新してしまう小学生男子。アマビエのコスチュームを作って着てみた高校生男子の恋。幼い頃、白いパンツが丸見えになるスカート姿で出演したCMで一世を風靡(ふうび)した女性が、母となって抱える屈託と焦燥。生活指導担当として教職をまっとうしたナカムラタメジの視点で検証される昭和から現代へと至る女子高生の制服のスカート史と精神史。
 個人的に一番好きなのは佐藤亜紀作品。トマス・アデリンなる人物が記した本「黒海沿岸紀行」からの抜粋というスタイルで描かれているのは、スカートをはき、髪を伸ばし、美しい馬に颯爽(さっそう)とまたがるカーチの男たちの行状です。自分の美しさだけに執着し、女を<下女>扱い。そんなあれこれを、作者は一族の古老が伝える譚詩(たんし)をまじえた端麗な文体で報告していくのですが、最後、商人が発するカーチの男に対する一刀両断の評を読んで大笑い。「よくぞ言ってくれました」と膝を打って呵々(かか)大笑できる傑作短編です。
 必ず好きな小説家や作品と出会える一冊。膝打ちまくり必至のアンソロジーなのです。 (ライター)
*次回は12月27日掲載予定です。

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