傷痕の腫れや隆起 メス入れる方向、影響大 術後にステロイドテープ

2021年11月23日 07時47分
 けがや手術後の傷痕に悩む人は少なくない。痛みやかゆみなどの不快な症状に加え、赤く腫れる、大きく盛り上がるといった見た目も、生活の質(QOL)に影響する。傷の治りが遅いほど、そうした状態になるリスクは高まるため、医療現場では手術の際、メスを入れる方向を工夫する試みが広がる。皮膚にかかる力を分散し、傷によって生じる炎症を早めに抑えるのが目的だ。 (砂本紅年)
 多くの患者を悩ませるのが、皮膚の傷が赤く腫れて盛り上がる「肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)」と、もともとの傷の範囲を超えて大きく広がる「ケロイド」だ。日本医科大形成外科教授の小川令さん(47)=写真=によると、いずれも傷を治そうと、皮膚が過剰な炎症を起こすことが原因。高血圧や、血中の女性ホルモン(エストロゲン)濃度が高いとなりやすいという。
 きっかけとなる傷は、ピアスの穴やにきび、手術などさまざまだ。肥厚性瘢痕は数カ月から数年で炎症が引き、症状も見た目も改善していくが、ケロイドは一般的に自然に治ることはない。「傷痕が原因で心の病を患う人もいる。傷のケアは心のケア」と小川さんは強調する。
 ケロイドは、もとの傷が関節など皮膚が引っ張られやすい部位にあると生じやすい。傷ついた皮膚は、硬く、伸びにくい状態になるため、日常生活で体を動かすと、そこに過剰な力が加わることに。例えば、腕を動かすと胸は横に引っ張られ、その結果、周囲の柔らかい皮膚にまで強い力がかかって新たな炎症が起き、皮膚が伸縮を繰り返す中で広がっていく。
 発症を抑えるには、こうした仕組みを理解した上で手術をすることが大事だ。小川さんは外科医に対し、メスを入れる方向を広めている。立ったり座ったりすると皮膚が上下に引っ張られる腹部は、縦に切ると傷の両端に過剰な力がかかって発症につながる。一方で横にメスを入れれば、上下に引っ張る力は傷痕全体に分散される。同様に、胸は縦に切開するのがいい。

[腹部]縦→×横→○ 腹は上下に引っ張られるため、縦にケロイドが広がる

[胸部]横→×縦→○ 左右に引っ張られる胸では横に広がる(いずれも小川令教授提供)

 「引っ張られる力に対し直角の方向に切るのが鍵」と小川さん。現在、米国では帝王切開の約九割が横にメスを入れており、かつては縦が多かった日本も変わりつつある。医学的な理由で望ましい方向に切開できない場合は「力を分散させる方法を考える」。メスを縦と横のジグザグに入れるのが、方法の一つという。
 術後は傷に放射線を当て、炎症の原因となる血管の増殖を抑えることが大事。医療用テープを貼って皮膚を補強し、傷にかかる力を弱めるのも効果的だ。医療用テープはドラッグストアで千円程度で買えるという。傷が十分隠れるように貼るのがポイント。術後三カ月から半年は、できるだけ傷痕を動かさないことも予防につながる。
 それでも二〜三カ月後、皮膚が盛り上がってきた場合は、医師の処方を受け、炎症を鎮める効果があるステロイドテープを貼るといい。ケロイド治療には、手術で病変を切除する方法もある。しかし、日本医大では年間約二千人の患者のうち、八割はステロイドテープなど手術以外の方法で改善しているという。

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