欧州の王室に皇室のヒント 熊倉逸男・論説委員が聞く

2021年11月23日 07時58分
 秋篠宮家から離脱した小室眞子さんの結婚で、皇族のあり方に改めて注目が集まっています。祝賀行事もなく一時金も辞退する異例の展開。特に論議を呼んでいるのが、皇族の公私の別や女性皇族の問題です。皇室の将来像をどう描くのか。君塚直隆・関東学院大教授に、皇室を考えるヒントともなりそうな欧州王室の実情を聞きました。

<君主制> 世界約200カ国のうち、君主制を採る国は28カ国。17〜18世紀のフランスは君主が絶対的な権力を握る絶対君主制だったが、現在、英国、北欧、ベネルクス3国などでは議会を王権より優先させ、「君臨すれども統治しない」立憲君主制が定着している。日本は戦前、天皇に大権を保障していたが、戦後、民主主義と共存する象徴天皇制となった。

◆自ら発信 関心高めて 関東学院大教授・君塚直隆さん

 熊倉 眞子さんの夫、小室圭さんの母親の金銭問題などを巡り、社会にさまざまな意見がある中、眞子さんは結婚に踏み切りました。英国でも王族の結婚が論議を呼んだことがあったのでしょうか。
 君塚 エリザベス女王の伯父エドワード八世(在位一九三六年一〜十二月)は離婚歴のある人妻との不倫の末、結婚、「王冠をかけた恋」といわれたスキャンダルで、大衆に愛想をつかされ、在位一年足らずで退位しました。女王の妹であるマーガレット王女は、離婚歴のある空軍大佐と恋仲になりましたが、周囲に反対され、泣く泣く結婚をあきらめました。公を優先させたのです。
 今回の眞子さんの結婚では、私を優先し、公を考えているようには見えませんでした。
 ただ、最近では英王室でも、ヘンリー王子とメーガン妃が事実上離脱し、公務から引退するなど、自分たちを優先する姿勢が目立っています。
 熊倉 王族たちはプライベートへの世論の反発に、どう反応してきたのでしょうか。
 君塚 ノルウェーのメッテマリット皇太子妃は、結婚前、過去に麻薬パーティーに参加していたことなどが明らかになりました。謝罪会見では「過去は消せないが、未来は築ける」と訴えて誠実さを示し、今では国の顔になっています。
 スウェーデンのビクトリア皇太子はプレッシャーから拒食症になった際、救ってくれたスポーツトレーナーのダニエルさんと付き合いましたが、国民の八割以上が交際は疑問だと指摘していました。国王に教養を磨くよう命じられたダニエルさんは、七年かけて国の歴史や語学などを学んだ末、祝福されて結婚しました。国民に誠意を示したのです。
 熊倉 英王室は国の中で、どういう役割を担っているのでしょうか。
 君塚 特徴的なのは、公務の多さです。九十五歳のエリザベス女王は六百もの団体の会長や総裁を務めています。英王族全体では三千以上の団体の会長や総裁を務めています。そのほとんどが、慈善や福祉、学術振興、地球環境問題など政府の手からこぼれ落ちやすい分野のものです。
 熊倉 それらの活動を国民に向け、どうアピールしているのでしょうか。
 君塚 宮内庁のような役所ではなく、王室自体がホームページを持ち、環境、人権など、全地球的な問題について発信しています。
 背景には、チャールズ皇太子と離婚したダイアナさんが一九九七年、事故死した件があります。サッチャー政権時代に貧富の差が激しくなり、取り残されたと感じた人々は、ダイアナさんに自分たちを投影していました。王室はそれまで、国民は自分たちのことを分かってくれていると慢心していましたが、ダイアナさんの死をきっかけに、置き去りにされた人々のことを考え、広報をしなければと気づき、王室改革の契機となったのです。
 熊倉 眞子さんの結婚では、皇室離脱の際に支払われる一時金も辞退しました。英王室の懐事情はどうなっているのでしょうか。
 君塚 英王室の費用は税金では賄われていません。所領の不動産を貸すなどして収入を上げています。日本の皇室も戦前は土地や、鉄道、銀行などの有価証券を持っていましたが、戦後、日本を統治した連合国軍総司令部(GHQ)に召し上げられました。その一部を戻して、それをもとに皇室にも収入を得ていただいてはどうでしょうか。皇居の修繕費や皇位継承の際の宮中行事、大嘗祭(だいじょうさい)の費用など、いろいろなことに活用できます。
 熊倉 皇室と英王室との大きな違いは何でしょうか。眞子さんの結婚による皇室離脱は「皇族女子は、天皇及び皇族以外の者と婚姻したときは、皇族の身分を離れる」(皇室典範第一二条)との「臣籍降下」条項に基づきます。欧州でもこうしたルールはあるのでしょうか。
 君塚 天皇を国家元首ではなく象徴としていますが、日本も立憲君主制です。ただ欧州の王室では原則、臣籍降下はありません。チャールズ英皇太子の妹、アン王女は結婚後も王族にとどまり、公務を続けています。
 眞子さんの振る舞いには臣籍降下で「どうせ皇室を出て行くのだから」という思いもあったのかもしれません。臣籍降下は時代錯誤の条項だと思います。
 熊倉 日本では、男性・男系天皇のみが認められています。これも皇族の先細りにつながらないでしょうか。
 君塚 欧州主要八カ国の王室では、女性王族にも王位継承権を認め、このうちの七カ国では第一子を優先しています。
 欧州各国の王室では現在、愛子さまとほぼ同世代の女性皇太子が将来、女王となることを見据え帝王教育を受けています。
 ベルギーのエリザベート皇太子は陸軍士官学校で訓練を受けました。オランダのカタリナアマリア皇太子は二億円以上に上る公費支給を断りました。まだ自分は公務をやっていないという理由からです。将来、女王になるという自覚と心構えが感じられます。
 男性・男系の天皇を続けるのには無理があります。皇位継承権を持つ秋篠宮ご夫妻の長男、悠仁さまのご結婚相手が絶対に男子を産まなければならないとしたら、皇后雅子さまと同様、どれだけ大きなプレッシャーを受けるのでしょうか。
 男性・男系の天皇へのこだわりは一九四七年に施行された皇室典範に基づきますが、一八八九年に制定された旧皇室典範からしてすでに、皇位は「男子・男系」のみが継承でき、「女性天皇」は排除されてきました。いわば、近代明治以後作り上げてきた神話です。
 熊倉 皇室、王室ならではの存在意義は何でしょうか。
 君塚 皇室や王室は幼い時から何十年も付き合いを続け、気持ちを分かり合う親友同士にもなります。親戚のような付き合いが代々続くのです。その外交の継続性と安定性は、皇室、王室を持つ国の強みなのです。先細りさせてはならず、残さなくてはなりません。
 熊倉 今回の眞子さんの件は皇室に対する国民の関心を高めるきっかけになりました。
 君塚 しかし、十〜三十代など若い世代の皇室への関心の低さは深刻です。気づいたら皇室がなくなっていたというのが一番怖い。皇室と国民の関係は遠すぎると思います。国民が皇室改革について声を上げるには、皇室側からもっともっとPRをしていかなくてはなりません。

<きみづか・なおたか> 1967年、東京都生まれ。上智大大学院文学研究科博士後期課程修了。2011年から現職。専門は英国政治外交史、欧州国際政治史。内閣の諮問機関「栄典に関する有識者」の一人。著書に『立憲君主制の現在 日本人は「象徴天皇」を維持できるか』(新潮選書)など。


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