<炎上考>「まるでオッサンの妄想」学会のプロモーションビデオで描かれた男性教授と女子学生の恋愛物語 吉良智子

2021年11月25日 06時00分
 日本は自然科学分野を専攻する女性が少ない。経済協力開発機構(OECD)の調査では、2019年に大学等に入学した学生のうち、自然科学分野の女性の割合は27%で、加盟国で最も低かった。さまざまな改善策が必要だが、私たちの社会が持つ価値観を見直すことも求められている。
 日本最大の化学者の学会「日本化学会」が18年4月、プロモーションビデオを公開した。「まるでオッサンの妄想」と批判を浴びた動画はこんな内容だ。ヒロインは大学3年生。ある日、憧れの男性教授とすれ違いざまに偶然ぶつかり、恋をする。教授への恋慕で日本化学会に入ったが、教授は娘がいる既婚者で、女子学生との「不倫」疑惑があると友人から聞く。自暴自棄になったヒロインは化学への興味を失っていくが、教授と疑惑の女子学生とは父娘関係とわかる。ラストの場面は、ヒロインと教授が、日本化学会の春季年会会場で見つめ合う―。

「日本化学会」のプロモーションビデオのイメージ

 無理がありすぎる設定はともかく、男性教授と女子学生の恋愛物語は笑い話ではすまない。実際、指導的立場にある人間からの要求を拒絶するのは難しい。その構造が、セクハラやアカハラの温床となってきた。
 理系を専攻する女性を指す「リケジョ」という言葉があるが、こうした言葉自体が、男性中心の分野にいる「例外的な女性」を指すものだ。「教える男性」と「教えられる女性」というステレオタイプの再生産とも相まって、「女性は理系に弱い」という思い込みを強化している。
 ネットでは「こんな理由で研究者を志すと思っているのか」などの感想があふれた。日本化学会は「多くの若手に化学に興味を持っていただき、化学の道へ進んでほしいという意図で作成」したと謝罪文を出し、動画を削除した。
 この動画で特に問題なのは、映像に「女性化学者」の姿がないことだ。若い世代、特に女子学生へのメッセージを送りたいのであれば、「女子学生は恋愛が好き」という陳腐なイメージで描くのではなく、ロールモデルとなるような女性化学者を登場させ、彼女たちが取り組んでいる研究の紹介をすべきではなかったか。

 きら・ともこ 美術史・ジェンダー史研究者


おすすめ情報

文化の新着

記事一覧