「売れ残ったかばんをわざと傷つけて捨てるブランドも」夜のNYで路上のごみ袋を開けて回る30歳女性の思い

2021年11月26日 17時00分
 米ニューヨーク中心街の夜に、商店や企業が路上に出したごみをチェックして歩き回る1人の女性がいる。かばんや本、雑貨…。まだ使えそうなものは寄付に回し、企業が自社の利益のために自ら傷つけて捨てた売れ残り品などがあればネットで公開して改善を迫る。「私たちの豊かさは無駄と隣り合わせ」。そう訴えるアナ・サックスさん(30)の夜に同行した。 (ニューヨーク・杉藤貴浩)

米ニューヨーク中心街で古物店から出た廃棄物を見回るアナ・サックスさん(右)。通りがかった人と品定めすることもある=杉藤貴浩撮影

 11月半ばの午後8時、カフェや商店がシャッターを下ろすころ、ニューヨーク市中心部アッパーウエストサイド地区にサックスさんが現れた。比較的裕福な地域の古物店の前だ。
 「ここはいつもきれいな状態の中古品が出るから」。サックスさんはそう話すと、路上に出されたごみ袋を開け始めた。出てきたのは、洗えば使えそうなリュックサックや手提げかばん、大きな傷の見当たらない傘や絵画。「何か持って行きますか?」。笑顔で作業を進めながら、持参したカートに積んでいく。品々は寄付したり、自宅周りに無料で置いたりするという。

書店の前に廃棄されていた本。古本としての流通を防ぐ目的か、表紙が破られていた=杉藤貴浩撮影

 活動を始めたのは4年前。激務だった投資銀行を辞め、環境問題に取り組むことを決めた。「私たちが路上に捨てているごみは、本当にごみなんだろうかという疑問が生まれた」とサックスさん。ニューヨーク市から出るごみは年間約1400万トン。単純計算で住民1人当たり1.7トンにもなる。「それを少しでも減らしたい」との思いで週3回のチェックに出かける。警官や通行人から質問されることもあるが、理由を説明すると分かってくれるという。

アナ・サックスさんがSNSに投稿した傷つけられた有名ブランドのかばん。映像が反響を呼び、企業側は改善策を発表した=本人のTikTok(ティックトック)から

 活動のもう1つの目的は、社会に大量生産と大量廃棄の矛盾を知ってもらうことだ。サックスさんは作業中、時折スマートフォンで出てきた品々を撮影し、自身の会員制交流サイト(SNS)に投稿する。特に注目を集めたのが10月に撮影した有名ブランドのかばんの映像だった。滑らかな革がナイフのようなもので切り裂かれていた。
 「売れ残り品を破損品ということにすれば、企業が税控除を受けられる仕組みのせいだと思う」とサックスさん。ブランド品には、廃棄品が市場に出回ってイメージが落ちないよう商品をわざと傷つけているという指摘もある。サックスさんの映像の再生回数は数日で200万回を超え、このブランド企業は廃棄品を減らすなどの改善策を迫られた。
 SNSでは、商品の破壊を指示された従業員らが苦悩を打ち明ける映像も集めている。「自分たちの給料では買えないようなものを自分たちで壊して捨てる。こんなディストピア(暗黒世界)を何とかしたい」。寒さの増すニューヨーク。サックスさんは今夜も路上に出る。

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