認知症への共感広がれ 家族の葛藤を舞台に 劇作家・嶽本さん、患者との交流きっかけ

2021年11月27日 08時08分

認知症について語る嶽本あゆ美さん

 認知症が進んで愛する家族や友人を識別できなくなっても、その人の本質が変わるわけではない。川崎市の劇作家嶽本(だけもと)あゆ美さん(54)は、書き下ろしの新作「私の心にそっと触れて」で認知症の人の心の内側などを描いた。「認知症は何も分からなくなった人」という思い込みが根強い中で、認知症の人への「共感」を持ってほしい−という願いを込めて上演する。 (五十住和樹)
 主人公は大学付属病院で脳神経内科の教授をしていた男性(68)。アルツハイマー病で少しずつ認知機能が失われていくが、当初本人は病気を認めず、かたくなに介護を拒否する。専業主婦の妻(66)も壊れていく夫を受け止められず、トイレの失敗を激しくしかるなど、追い詰められて疲労感を募らせる。親身になってくれる友人がいて経済的にも豊かだが、家は次第にすさんでいく−という物語だ。
 嶽本さんは二〇一七年から長野県茅野市で演劇講座の講師を担当。地元の御柱(おんばしら)祭を題材に市民が作った台本を老人保健施設で上演した。上演中、認知症が進んでほとんど発語がない人が「家の裏を(祭りが)通った」と口にしたり、いつもは動かない人が突然車いすから立ち上がろうとしたりして、介護者を驚かせる場面があった。「ふたをされている心の機能が音楽や演劇に触れた時にきらめくように発露する」と、嶽本さんは感じたという。

けいこに臨む主演の外山誠二さん(右)と妻役の白石珠江さん=東京都内で

 コロナ禍で演劇活動が止まった時などに高齢者施設で介護のアルバイトを重ね、何人もの認知症の人に接した嶽本さん。十年ほど前の数年間、アルツハイマー病になった六十代の女優と舞台を共にして、「記憶が消え、電話のかけ方も分からなくなっても彼女の思いやりや感受性は変わらない」と確信したことが、今回の劇作につながった。
 舞台には、認知症の人や家族介護を理解するヒントが詰まっている。主人公の男性が「携帯が見当たらない。きっと盗まれたんだ」と訴えるが、訪問介護ヘルパーの女性は否定せず「一緒に捜しましょう」と応対する。「熱心な介護者でも繰り返される負担が過剰になると、つい不適切な行為を行う状況まで追い詰められる」という保健所のお便りを妻が読む場面も。
 また、男性は自分が治療した患者とのやりとりなどを妄想して妻とぶつかるが、男性の知人が「妄想にはちゃんと理由がある」と、認知症だから何も分からないと否定せず、向き合って話を聞くことの大切さを訴えるシーンも出てくる。嶽本さんの経験から書いた場面という。
 政府は一九年にまとめた認知症施策推進大綱で「認知症の人の意思が尊重され、住み慣れた地域で自分らしく暮らし続けられる社会の実現」を目標に掲げた。嶽本さんは「家族には認知症を受け入れられない気持ちがあるが、それが患った人への共感をはばんでしまう」と話している。
 十二月十六〜二十二日に東京都新宿区新宿二丁目の「シアター新宿スターフィールド」で。前売り五千円、当日券は五千五百円。問い合わせ先は制作担当の高木由起子さん=電090(3247)4937。

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