「低い点数、人間としてダメ」 親の「教育虐待」に苦しむ子どもたち 家庭に居場所なく

2021年11月28日 06時00分
 「良い学校に入れたい」「成績を上げたい」といった思いから、親が子どもに限度を超えた勉強を押しつける「教育虐待」。2011年の日本子ども虐待防止学会でその事例が報告されてから10年となるが、今も被害を受け、深く傷つく子どもたちがいる。教育熱心では決して済まされない保護者の行き過ぎた行為を、どうしたら防げるのか。

「教育虐待」を訴えてシェルターに逃げてきた子どもは「親が信頼できない」と職員からの質問用紙に書いた

 「親元では、希望の大学に行けない。家を出たい」
 東京都江戸川区の社会福祉法人「カリヨン子どもセンター」が運営する緊急避難場所(シェルター)に、都内の有名私立高3年の女子生徒が身を寄せた。
 生徒は1人っ子。母親は教育に熱を入れ、成績が下がれば耳元で怒鳴り、友人関係にも干渉した。希望とは別の難関大に入るよう言い続けた。一流企業に勤める父親は、仕事が忙しいと家庭を顧みなかった。親子別々にカウンセリングを受け、関係改善をはかった。
 高校3年の男子生徒は親に「こんなに低い点数なんて人間としてダメ」「きょうだいは勉強ができるのに、なぜできない」と繰り返し言われ、家を出た。親やきょうだいは皆、医師か医学部生。生徒も医学部進学しか許されなかった。シェルター入居後は「自立したい」と就職の道を選んだ。

◆経済的に安定しているような家庭で起きている

 センターの石井花梨かりん事務局長(39)は教育虐待について「経済的にも、家族構成も、一見安定しているように見える家庭で起きている共通点がある。子どもたちは両親が決めた進路を強いられ、家庭に居場所がなく、逃げてくる」と話す。

「教育虐待」を訴えてシェルターに逃げてきた子どもについて話す石井花梨事務局長=東京都内で

 今月は児童虐待防止推進月間。厚生労働省は児童虐待を、殴る、蹴るといった「身体的虐待」や、言葉による脅しなどの「心理的虐待」など4分類で集計するが、教育虐待という分類は設けていない。しかし、「なんで勉強しないの」と子どもを傷つけるほどたたけば身体的虐待にあたり、テストの点数が悪いから「おまえは本当にだめな子だ」などと人格を否定する発言を繰り返した場合、心理的虐待に該当する可能性がある。
 石井さんがシェルターに避難する子に聞くと、教育虐待と思われるケースは年数件あるという。シェルターの子どもたちはつらさや違和感を口にできないこともあるといい、「親が求める勉強や習い事が、子どもにとって頑張りたいことなのか、コミュニケーションを取ることが重要。子どもが自分の考えを言葉にする練習も必要だ」と強調した。

◆背景には中学受験熱の高まり「学びたくなる環境整備を」

 2011年12月の日本子ども虐待防止学会で、教育を巡る虐待を報告した武蔵大元教授(臨床心理学)の武田信子さんは「力を入れるべきなのは、子どもが学びたくなるような環境の整備。努力と工夫が必要なのは大人の方だ」と訴える。
 武田さんは、教育虐待などが起きやすい背景に、世帯当たりの子の数の減少や、中学受験熱の高まりがあるとみる。「1人の子に強い期待をかけたり『いい学校に入れなきゃ』と考えたりする傾向は、より深刻になっている」と言う。
 都市部では、中学受験をする子どもが増加。東京都教育委員会の報告書によると、今春、公立小を卒業した人のうち、都内の私立中への進学者の割合は、都全体では18・7%(2020年度)で過去最高に。東京23区に限ると同23・5%に上り、文京、中央両区は4割以上と多かった。
 子どもへの不適切な行為の予防に取り組む一般社団法人「ジェイス」代表理事も務める武田さん。親に対し「子どもを1人の人間として見ることが大事」と語る。その上で「社会全体で、学歴による判断や、点数による表面的な評価をなくす姿勢が求められる」と話した。(奥野斐)

武蔵大元教授の武田信子さん


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