<カジュアル美術館>解放され行く人間性 丸木俊(赤松俊子) 東京国立近代美術館

2021年11月28日 07時16分

1947年 油彩・カンバス 130×97センチ

 絵のど真ん中に、裸の若い女性がふんばっている。どっしりしたふともも、ばら色の丸いほっぺた…。光差す方を見上げる姿は、土偶か地母神のようだ。
 <元始、女性は実に太陽であった>
 見た瞬間、つい平塚らいてうの言葉を連想した。
 背景には、闇になだれ落ちるように咲く薄紫の花。螺鈿(らでん)細工のようなきらめきに見とれていると、「何か不思議だと思いませんか」と東京国立近代美術館主任研究員の成相肇さんが言った。女性の足元をよく見ると…宙に浮かんでいる?
 「一つの作品の中に、裸婦像と風景画、二つの絵が存在しています」と成相さん。女性と背後の花では光線の角度も違い、バーチャル背景のよう。「二つの絵をつなぐ役割をするのが、女性が枝をつかむ手です」
 作者は洋画家の丸木俊(赤松俊子、一九一二〜二〇〇〇年)。夫の日本画家丸木位里と共同制作した「原爆の図」で広く知られる。だが、個人としての画業が注目されはじめたのは近年になってからだ。
 この絵の発表は、新憲法が施行された一九四七年五月。抑圧されてきた女性が初めて男性と同じ権利を獲得した。そんな「戦後・女性・解放」を象徴するようなタイトルで、第一回前衛美術展に出された。同年に描かれた自画像も残る。
 原爆の図丸木美術館の学芸員岡村幸宣さんは「民主主義への希望に満ちた作品。当時の俊さんには、社会を変えられるという確信があったと思う」と語る。

<自画像>1947年

 ところがそれから半世紀以上、絵は封印された。再び日の目を見たのは二〇〇〇年代。公開されたのは没後だった。なぜなのか。
 作品発表からまもなく、米ソ冷戦の影響で、占領下の日本でもレッドパージが始まった。丸木夫妻は、被爆の惨状を世に伝える「原爆の図」の制作を開始。一九五〇年から八二年にかけて全十五部を完成させた。丸木俊の自著には、原爆の図にとりかかる前の自身について「平和だ、建設だ、という言葉にぼけていた」という記述がある。「喜びもつかの間、『戦争は終わっていない』と痛感したのでは。この輝かしい裸婦像は、原爆の図と対になっていると感じます」(岡村さん)
 水俣病、アウシュビッツ、南京大虐殺、沖縄戦…。手掛けた絵に共通するのは、打ちのめされ、傷つけられた人間の尊厳を描くことだった。虐げられた人々にも確かに存在する、かすかに光るもの。裸婦像が象徴するのは、そんな人間本来の姿であり、輝くエネルギーだったのかもしれない。
◆みる 「解放され行く人間性」「自画像」は東京都千代田区北の丸公園3の1、東京国立近代美術館の所蔵作品展「MOMATコレクション」で来年2月13日まで展示中。開館は午前10時〜午後5時(金曜・土曜は午後8時まで)。月曜休み(祝日は開館、翌日休館)。来館は日時指定予約がおすすめ。所蔵作品展は一般500円、大学生250円。高校生以下と18歳未満、65歳以上は無料。
文・出田阿生
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