[バスの中で] 三重県鈴鹿市 辻舞衣(14)

2021年11月28日 07時39分

◆わたしの絵本

イラスト・まここっと

◆300文字小説 川又千秋監修
[途切れた言葉] 千葉県浦安市・会社員・63歳 野田充男

 妻と京都旅行に出かけた。
 自分たちで観光を考えるのも面倒なので、駅の観光案内所で「バスで巡る1日コース」を申し込んだ。
 観光が始まると、ガイドさんは金閣寺など名所の見どころを詳しく説明してくれた。
 最後の名所に着くと、ガイドさんはバスの中で言った。
 「この建物には貴重なものがたくさん展示されています。時間をかけて、じっくりご覧になってください。ただ…」。そこで、言葉が途切れた。
 −ん? どうした? ただ…何なんだ? その建物には、何か問題があるのか。
 私も妻も、他の乗客も息をのんで次の言葉を待った。
 「…今の時間は三時五分です。四時までにはバスにお戻りください」
 腕時計で時間を確認し、ガイドさんは私たちに言った。

<評> 旅程通りに進んでいたバス観光の終盤、突然、ガイドさんから投げかけられた謎の間合い。いったい何が告げられるのか…参加者全員がギョッと息をのみましたが、一呼吸おいてガクッと脱力。

[秋の夕暮れ] 愛知県東海市・主婦・54歳 山盛直美

 今日の夕飯は何にしよう。
 子どもたちが大好きなクリームシチューにしようかな。
 それなら、鶏肉とジャガイモを買わなくちゃ。
 ニンジンとタマネギは冷蔵庫にあったから、牛肉にすればビーフシチューにもなるね。
 おや!
 今日は大根の特売日。
 これを知ったら、おでんが候補に仲間入り。
 煮込まなくちゃいけないから今夜の献立には無理だけど、そろそろ土鍋も出しておこう。
 鍋のふたを開けたら、湯気が、ホワホワァ〜。
 あったかい湯気もごちそうになる献立ばかり思い浮かぶ、夕暮れスーパーマーケット。

<評> 風の冷たさが身に沁(し)みるこの時季。さまざまな素材が300文字の中で煮込まれて、読み手の食欲を温かくかき立てます。立ちのぼる夕餉(ゆうげ)の匂いを思い描きながら、さて、あなたが選ぶのは?


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