絵本の力、復興に活用 柳田邦男さんが講演で提唱

2021年11月28日 07時54分

「心の再生と地域の発展〜絵本の力を見直そう」をテーマに講演する柳田邦男さん=東京都新宿区の日本青年館で

 ノンフィクション作家の柳田邦男さんが「心の再生と地域の発展〜絵本の力を見直そう」と題して講演し、復興に向けて絵本の読み聞かせの活用を提唱した。
 日本はコロナ禍で経済が疲弊し、大変な状況にあります。ネット社会の進行に伴い、人間関係や心の問題も起きています。震災復興を考える中で、経済や産業の復興と同時に人間の心の復興にも目を向けないといけません。心の成長を考えたときに絵本というのが大事なキーワードになります。
 活気のある地域とはどんな地域か。商店街がにぎやか、人出が多い、観光地がにぎわう、それも活気でしょう。ただ身近なところとなると、温かい隣近所があり、路地裏で子どもが笑顔いっぱいで遊んでいる、一人一人が他者に思いやりを持って、何かあれば手を差し伸べる、そういうつながりがあるところです。
 今はプライバシーが重視され、どこの家にどんな困った人がいるのかを知らない、聴覚障害者が避難警告のアナウンスを聞けなかったなど、さまざまな孤立があります。「おせっかいおばさん」。おせっかいなくらい、声を掛けてくれる。教えてくれる。そういう存在が大事になります。
 絵本は大人の感性も磨きます。読み聞かせをすると、母親、父親が子どもの感性の素晴らしさに気付くのです。子どもの反応から大人が学ぶわけです。スマートフォンのやりとりだけでつながりができていると思っているとしたら、大間違い。生身の触れ合いや、表情やスキンシップを通じて、心が発達するのです。

◆感性磨き、地域につながり

 東京都荒川区で絵本推進アドバイザーをやらしてもらっている中で、お便りを頂きました。地域の生涯学習として、年配者十数人が佐野洋子さんの絵本「おじさんのかさ」の読み聞かせをしたそうです。
 物語では、紳士気取りの男性はいつも高級な傘を持ち歩いていますが、大事な傘をぬらしたくないので、雨が降っても開かないのです。ある時、雨宿りしていると、小さな子から「傘に入れて」と頼まれたが、知らん顔をする。すると、その子に別の子が声を掛け、相合い傘で歌いながら楽しそうに帰っていくんですね。男性も自分の傘を開いてみると、雨音を感じ、歌を口ずさみました。
 読み聞かせの後、「年齢を重ねると考えが凝り固まり、心を開かなくなる」「頭を解放して暮らさないといけない」といった話に発展したそうです。
 福島県矢祭町の小学校で十年ほど前、私が翻訳をした絵本「ヤクーバとライオン」の読み聞かせをしました。アフリカ奥地の風習に従わず、ライオンの命を守った若者の話ですが、感想文を書かせると「僕は仲間外れを恐れて、相手をいじめていた」という子がいたんですね。この小学校ではいじめグループが自然消滅したそうです。
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 全国ではさまざまな取り組みがあります。北海道士別市は絵本ツアーを始めました。そこでは畳屋さん、お花屋さん、旅館などを巡りながら読み聞かせをします。親子で街にどんな店があるのかを知ることで地域の文化ができます。
 佐賀県伊万里市黒川町では使われなくなった電話ボックスや大工さんの手作りの本箱などを使って、街の八カ所に絵本を置いています。先月末にオープンしたばかりですが、誰もが自由に身近に読み聞かせができます。街全体の雰囲気が変わっていくのです。
 困難な時代に子どもと向き合い、大人が感性を磨き直す。私はそれを絵本の地域文化、絵本の家庭文化と呼んでいます。絵本を巡る文化の創造にぜひ取り組んでいただきたいです。

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