悩みの正体は「おじさん社会」 バリキャリ女子が目覚めるまで

2021年11月29日 07時14分
 どうにもならない女性の生きづらさは、「おじさん社会」が原因だった! そんな気づきをつづったエッセー集『ぜんぶ運命だったんかい おじさん社会と女子の一生』(亜紀書房、1540円)が刊行された。著者の笛美さんは昨年、「#検察庁法改正案に抗議します」というツイッターデモを始めた張本人。おそるおそる政治に声を上げようと思ったのは、フェミニズムとの出会いがあったからだった。 (出田阿生)
 「笛美(ふえみ)というペンネームは、フェミニズムからつけました」。そう語る笛美さんは、都内の広告代理店に勤務する三十代の会社員。「残業で疲れているときは政治のニュースなんてどうでもよかった」と振り返る。著書の前半は、笛美さんが高学歴で高収入の「バリキャリ女子」として、男性中心の広告業界で身も心も擦り減らした様子が率直に語られる。
 帰宅は連日終電後、休日も出勤。同じ激務でも男性と違うのは「女らしさ」を求められたことだった。徹夜明けでも化粧は必須。飲み会で「女の子についでもらった方がおいしい」と言われたらお酌は断れなかった。上司には、「子宮でしか書けないコピーを書け」と励まされ、困惑した。

著書について語る笛美さん=東京都内で

 三十歳を目前に「結婚して子どもを産まなくては」と必死に婚活した。いつの間にか「仕事と結婚と出産を全てこなせない自分は欠陥品だ」と思い始めた。そんな折、電通の新入社員だった高橋まつりさんが自死する事件が起きた。「女子力がない」と上司に嘲笑されたことが生前のツイッターに書かれていた。自尊心を削られた理由は、長時間労働だけじゃない。まつりさんが自分と重なった。
 「生きていてごめんなさい」と自責する日々に、人生の転機が訪れる。インターンで海外に数カ月滞在することになったのだ。夕方のスーパーに子連れ男性が大勢いて、目を見張った。会議は短時間、残業もなし。広告には中年女性も若者と同様に起用されていた。
 「なぜこんなにも違うの?」。帰国して日本と諸外国とを比較する本を読みあさり、働き方の違いが分かった。日本の男性の長時間労働は、家事・育児・介護を担う女性のサポートで支えられている。仕事という「男部門」と、結婚や出産という「女部門」の両方で競わされていたと気付いた。逆方向の二つの理想を追うのは不可能だった。
 日本社会のジェンダー格差に気付いてからは、次から次へとパズルが解けた。男性が養う前提で設定された女性の低賃金と、その結果の貧困。被害女性の落ち度にされる性暴力…。自分が感じてきた不条理は男性中心の社会を維持するための必然、「運命」だった。新しい世界が見えてきた。
 昨春、コロナのような症状に襲われた。保健所に電話がつながらず、PCR検査も受けられなかった。国のコロナ対策を知りたいと、初めてテレビで国会中継を見た。「アベノマスク」や「お肉券」が議題になっていて、あまりのズレに驚愕(きょうがく)した。議場にいるのはおじさんばかりだった。
 そこに検察庁法改正案の審議入りのニュースが飛び込んだ。政府が検察人事に介入し、独立性や中立性が揺らぐと分かった。「民主主義がやばい」。「たとえしょぼくても声を出そう」と一歩を踏み出した。
 笛美さんは言う。「自分の悩みは世の中の仕組みとつながっている。だから、普通の人間として悩みながら、小石を投げ続けたい。みんなでおじさん社会の扉を開けて、新しい空気に入れ替えたい。モヤモヤしている人にそう伝えたくて、この本を書きました」

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