難民問題が反体制派の逃げ道ふさぐ…「暗黒世界」さながらのベラルーシ 出口なき独裁政治

2021年11月29日 11時30分

反体制派を象徴する赤と白の服を着てSF小説「1984年」などを読むベラルーシ市民=ゼルカロ提供

 中東難民らをポーランドなどに意図的に移送したとされる旧ソ連の構成国だったベラルーシ。欧州連合(EU)が発動した対ベラルーシ制裁への報復が目的と各メディアが伝えているが、実際は反体制派の亡命を阻止する狙いもあるようだ。ソ連の監視システムを継承し、出口なき独裁体制となったこの国を、SF小説の「暗黒世界」に例える市民もいる。(モスクワ・小柳悠志)

◆国境の往来規制は大統領の狙いか

 難民が殺到し、ポーランドとベラルーシの治安部隊が向き合う国境。付近は有刺鉄線が張り巡らされ、自由な行き来は不可能になった。
 「難民問題でベラルーシの反体制派の逃げ道もふさがれた。ルカシェンコ大統領の狙いの1つだったのだろう」。ベラルーシ反体制派のオリガ・カラチ氏(42)はこう指摘する。

ポーランド警備当局(左)と中東難民らで緊張が続くベラルーシ・ポーランド国境=10月撮影、ベラルーシ政府提供

 ベラルーシで昨年から問題となっていたのが若者らの国外流出。ルカシェンコ氏が不正得票で6選を決めた昨年夏の大統領選後、その勢いは増し、欧米メディアによると13万人以上の市民が国外に逃れた。
 秘密警察KGBに追われた反体制派は、国境検問所を避けてポーランドやリトアニアの森に逃げ込んだ。この2国は歴史的にベラルーシと対立し、政治的抑圧を受けた亡命者を保護してきたからだ。
 ところが、6月頃から中東難民が押し寄せて事態は一変。国境警備の強化の巻き添えを食らい、ベラルーシ反体制派は越境が困難に。ポーランドやリトアニアは難民の流入を防ごうとベラルーシ国境に壁を建設する方針で、ルカシェンコ氏の思うつぼになりつつある。

ルカシェンコ大統領=ベラルーシ大統領府提供

◆反体制派への弾圧続く

 国内に残った反体制派は「反ルカシェンコ」の思いを発信している。独立系メディア「ゼルカロ」によると、9月には女性たちが反体制の象徴である白と赤の服を着て列車に乗り込んだ。読んでいるのは英作家ジョージ・オーウェルの「1984年」など。「1984年」は往時のソ連を参考に、人々が監視社会で暮らす「暗黒世界」を予言したとして名高い。
 首都ミンスクの学生エカテリーナさん(19)=仮名=は「『1984年』とベラルーシは似通っている。ただし小説は、ルカシェンコのように国の恥部を世界にさらすことはなかった」と皮肉る。
 ベラルーシではこの1年で、270もの非政府組織が閉鎖された。ルカシェンコ氏は今月、英BBC放送の記者にこの点を問われると、「西側諸国の息が掛かった組織はぶっつぶす」と語った。9月にはベラルーシ反体制派でノーベル文学賞作家のアレクシエービッチ氏らの作品が学校教科書から削除された。
 「政府から独立したメディアも、人権団体も、ベラルーシには今や残っていない」。ポーランドの大学で学ぶベラルーシ人のニキータさん(21)はこう嘆いた。

◆ロシアが対EUの「緩衝国」に利用

 ベラルーシの独裁体制を読み解く鍵の一つが地理的な特性だ。欧州連合(EU)からの政治・経済・思想的な影響力を弱める「緩衝国」の役割を果たしており、ロシアはベラルーシの政変を恐れてルカシェンコ大統領の権力維持に力を貸してきた。
 「ロシアにとってのベラルーシは、中国にとっての北朝鮮と似た地政学的な重要性がある」と外交筋は説明する。
 ソ連時代、国営農場で働いていたルカシェンコ氏は、1994年に大統領選に初当選すると、野党弾圧や言論規制に乗り出した。ソ連崩壊から30年がたつ現在でも、ベラルーシは国営企業が多く、秘密警察KGBが市民を拘束するなどソ連的な弾圧手法を用いている。

関連キーワード


おすすめ情報

国際の新着

記事一覧