「人事はちゃんこ屋で決まっている」脱税容疑で逮捕の日大理事長、田中英寿容疑者の権力と「集金マシン」

2021年11月29日 21時54分
 約7万3000人の学生を擁する国内最大のマンモス私大、日本大学(東京都千代田区)の不正資金を巡る事件は29日、大学運営最高責任者の刑事責任追及に発展した。理事長として長年君臨した田中英寿容疑者(74)。業者との癒着など疑惑が絶えなかった。(奥村圭吾、三宅千智)

◆「異論を述べる人を排除するように」

 5期13年という異例の長期政権を敷いた田中容疑者。日大相撲部時代は学生横綱にも輝き、卒業と同時に職員として就職。体育会人脈を生かし、学内で地位を着実に築いていった。権力の源泉は「人事」だ。
 運動部を統括する保健体育事務局長、約120万人の卒業生を束ねる「校友会」会長などを務め、2008年に経営トップの理事長に就任。「当初は『おまえたちがそう言うなら』と、周りにも耳を傾ける人だった。そのうち異論を述べる人を排除するようになった」。元理事の1人は振り返る。
 国が主導した大学のトップダウン化の流れに乗じて13年、組織改編で理事長は教学トップの学長より上の位置付けに。権限を集中させた田中容疑者は「人事権を駆使して独裁体制をつくっていった」と元教授は振り返る。

◆ちゃんこ料理店に幹部ら日参

日本大学桜門会館で、井ノ口忠男被告(上段右)と籔本雅巳被告(同左)と一緒に写る田中英寿容疑者(下段左)=日本大学ホームページから(一部画像処理)

 自宅のある東京都杉並区のビルで、妻が経営するちゃんこ料理店には、大学幹部や業者が日参。元理事の井ノ口忠男被告(64)=背任罪で起訴=も常連で、妻に取り入り、経営中枢に食い込んでいったとされる。
 「日大の人事はちゃんこ屋で決まっている。理事長が理事を選ぶので、理事は誰も逆らえない」とある職員。別の日大関係者は「職員の人事を細かく見ておきたい人。皆が顔色をうかがっていた」と明かす。

◆悪質タックル問題では「われ関せず」

 18年のアメリカンフットボール部の悪質タックル問題では、ともにアメフト部出身で、当時常務理事で監督だった内田正人氏や、井ノ口被告ら「側近」の関与が浮上したが、田中容疑者が公の場に出ることはなく「『われ関せず』の態度を取り続けた」(第三者委員会の報告書)。
 今回の背任事件で9月、自宅が家宅捜索を受けた後も、大学付属病院に夫妻で入院して身を隠した上で、理事会にはいつもどおり出席し、事件への関与を否定していたとされる。

◆検察幹部「事業部を集金マシンのように」

 日大付属病院の契約を巡る背任事件で逮捕、起訴された元理事の井ノ口忠男被告は、田中容疑者の側近中の側近として知られていた。2人は、大学の契約を一手に担い「集金マシン」と称された日大関連会社を舞台に、大学の資金を食い物にしてきたとみられる。
 田中容疑者は理事長就任2年後の2010年、日大が100%出資する「日本大学事業部」(東京都世田谷区)の設立を主導。日大アメフト部OBの井ノ口被告に運営を一任し、事業部は大学のあらゆる契約を手掛けるようになった。
 「理事長付相談役」の肩書を与えられた井ノ口被告は「強引に、わが物顔で企業に対しリベートや協力金を迫っていた」(日大関係者)という。
 元理事の男性は「井ノ口被告が田中容疑者の『金の番頭』として立ち回っていた」と振り返る。検察幹部は「事業部を集金マシンのように悪用して井ノ口被告に金もうけさせ、企業からのリベートを献上させていた実態があったのではないか」とみる。

◆背任事件の関与は立件断念のもよう

 関係者によると、井ノ口被告らと田中容疑者の間では日常的に多額の金銭のやりとりがあった。こうした経緯から東京地検特捜部は、田中容疑者の背任事件への関与についても捜査したが、実際の資金流出の枠組みまで把握していたと立証するのは難しく立件を断念したもようだ。
 一方、家宅捜索で自宅から見つかった1億円超の現金を中心に、国税当局と連携して所得税法違反容疑で捜査を続けた。今後、田中容疑者の妻の同容疑への関与も含め、不透明な金について背景の解明を進めるとみられる。

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