オミクロン株出現は途上国支援不足のツケか 先進国目線の限界

2021年11月30日 06時00分

◆南アは「素早い検知能力を罰している」と欧米に反発

 欧米などの渡航制限を、南ア当局は強く批判。英BBCは「南アの優れたゲノム解析技術や、新しい変異株を他国より素早く検知する能力を罰しているに等しい」との同国外務省の声明を伝えている。
 日本貿易振興機構(ジェトロ)・アジア経済研究所の佐藤千鶴子研究員も、南アは経済的にも公衆衛生的にも周辺諸国より進んでいるとみる。「オミクロン株はすでに広がっていて、それが科学技術が進んでいた南アで発見できただけ。世界に警鐘を鳴らすために発表したのに、『それはないよ』という意識が南ア政府にはある」と解説する。

南アフリカ・ヨハネスブルク郊外で29日、新型コロナのワクチン接種を受ける女性=AP

 南アでは今年6月ごろから9月末まで、感染の第3波が襲来していた。観光が重要産業の一つで、欧州諸国が渡航制限をする対象国からようやく外れたばかりだった。「南半球にあるため、これから夏を迎え、欧州諸国からの観光客が見込めるかき入れ時の目前。タイミングの問題もあり、ショックが大きい」
 オミクロン株はPCR検査で検出可能とされるが、アフリカではPCR検査の態勢が十分でない国もある。初動で感染拡大を止めるのも難しく、以前から新変異株の発生が懸念されていた。

◆貧困や政治的混乱で「ワクチンどころではない」

 ザンビアやスーダンで医療支援を行うNPO法人「ロシナンテス」の立花香澄さんによると、政治的混乱が影響している国もある。
 例えばスーダン。2019年から暫定政権による軍民共同統治が行われてきたが、今年10月に軍によるクーデターが発生した。「政治の混乱を背景とする政府不信があったり、接種に対するネガティブな情報が広がったりして、ワクチン接種をためらう人もいる。地域によっては、貧困や内乱でワクチンどころではない人もいる」
 こうした事情もあって、感染者が確認されたアフリカ南部諸国のワクチン接種率は、先進国と比べて相当低い。接種が完了した割合は南アで24%。ボツワナは20%で、ジンバブエ18%、ナミビアは11%にとどまる。ちなみに日本は77%。オーストラリアは72%で、英国は68%だ。

◆接種格差は「ワクチンアパルトヘイト」

 WHOのテドロス事務局長はこれまで、発展途上国には医療従事者や高齢者にさえワクチンが行き渡っていないのに、先進国は3回目のブースター接種に向けた発注を行っていることについて、「ワクチン供給が著しく不公平になっている」と再三発言している。
 NPO法人「アフリカ日本協議会」の津山直子共同代表は「接種が進んでいない南アやその周辺国と、3回打てるような先進国との格差は『ワクチンアパルトヘイト(人種隔離)』とも呼ばれている。一方、南アが先進的なゲノム解析に力を入れ、いち早く変異株を検出したことは評価されている。危険視され、関係を遮断されることで、孤立に追い込まれるのを危惧する」と注意を促す。
 元WHO事務局長上級顧問で、東京財団政策研究所の渋谷健司研究主幹は「接種率が低く、ウイルスへの免疫が中途半端な状態にとどまっていると、感染がおさまらず、変異株の温床となる。せっかく感染が収束しても変異株が入ってきて『いたちごっこ』を繰り返す。このループを脱するためには、途上国にワクチン接種を進めていくしかない」と指摘する。
 「コバックス」と呼ばれる、途上国にワクチン供給する国際協調枠組みはすでにある。「日本国内には『他国のことより自国だろ』という声もあるが、オミクロン株の出現によって『すべての人が安全じゃないと、安全にはならない』ということが分かったと思う。日本は資金提供だけでなく、この枠組みを通じてリーダーシップを発揮し、途上国への接種を推進していくべきだ」

◆デスクメモ

 南アは日本で開かれた2019年ラグビーW杯の優勝国だ。大会で注目された言葉が「ワン・フォー・オール、オール・フォー・ワン(1人はみんなのために、みんなは1人のために)」。自ら体を張り、困った人がいたらみんなで助けるということだろう。今こそ必要な姿勢では。(本)
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