オミクロン株出現は途上国支援不足のツケか 先進国目線の限界
2021年11月30日 06時00分
世界各地で感染者が確認されている新型コロナウイルスの新変異株「オミクロン」。重症化リスクはまだ不明だが、アフリカではかなり前から蔓延していた可能性も浮上している。途上国の脆弱な監視態勢が突かれた形だが、こうした懸念はかねて指摘されていた。上がらないワクチン接種率だけでなく、貧困や紛争に苦しむ国々も多い。先進国目線のままで、繰り返し出現する変異株に対応できるのか。(中山岳、石井紀代美)
◆アルファ株やデルタ株より短期間で感染拡大
南アフリカがオミクロン株を世界保健機関(WHO)に報告したのは24日。だが、最初に感染を確認した検体は9日に採取されていた。同国保健当局のデータによると、同日に約250人だった新型コロナ感染者数は急増し、27日には3220人に達した。主流だったデルタ株から、オミクロン株へ急速に置き換わったとみられる。
気になるのは、アルファ株やデルタ株よりも短期間で広がっている点だ。感染例が多い同国ハウテン州では今月下旬以降、感染者の半数以上をオミクロン株が占めるまでになった。
東京大医科学研究所の佐藤佳准教授(ウイルス学)は「デルタ株を追いやる形で流行する可能性のある株は初めてだ。国際社会で懸念が広がっている」と指摘する。
佐藤さんは、感染力は今の段階で断定できないとしつつ「今後1~2週間の情勢を見極めることが重要。ワクチン開発や対策強化の時間を稼ぐためにも、水際対策やウイルスのゲノム(全遺伝情報)調査などを拡充すべきだ」と説く。
◆先進国より手薄なPCR態勢、水面下で感染増か
欧米諸国はアフリカ南部の各国からの入国を原則禁止に。日本政府は30日から全世界の外国人の新規入国を原則禁止する。日本や米国は経済重視で8日に入国制限を緩和したばかりだったが、感染の再拡大は避けたい思惑が透けて見える。
ただ日米を含め、感染例が確認されていない国でもすでに流入している可能性は否定できない。米国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長は27日、テレビ番組で米国にオミクロン株が流入している可能性について「そうだとしても驚かない。ほぼ必ず最終的には全体に広がっていくだろう」と述べた。
オミクロン株は、感染に関わる「スパイクタンパク質」に約30カ所もの変異があり、従来の変異株より感染力が強まった可能性が指摘されている。ただ、南アで最初の検体が採取されてから2日後の11日には、隣国ボツワナで感染者が確認された。同日にエジプトからベルギーに帰国した女性の感染も確認されている。最初の感染者が確認された時点で、既に流行していた可能性はないのか。
昭和大の二木芳人客員教授(感染症学)は「オミクロン株も無症状者はいるため、知らないうちに感染は広がる。最初の感染者を確認した以前からアフリカ諸国を中心に水面下で感染が広がっていて、一気に表面化した恐れもある」とみる。先進国より手薄なPCR検査などの監視態勢をすり抜けて、オミクロン株が広がっていた可能性があるということだ。
そうした中で、南アで感染者が多く見つかっている理由を、二木さんは「周辺の国と比べれば、検査や医療体制がしっかりしているためではないか」と分析する。「現時点で日本に流入している確率は低いものの、流入していないとの保証はない。今すぐにでも公的検査を増やすなど対策強化が必要だ」と強調した。
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