WEBセミナー 認知症専門医が教える「元気脳」のつくり方

2021年11月30日 10時07分
 いつまでも心と体を健やかに保つ方法を学ぶWEBセミナー「認知症専門医が教える『元気脳』のつくり方」(中日新聞・東京新聞生活部主催)が十八日、ビデオ会議システム「Zoom(ズーム)」を使ってあった。講師の遠藤英俊さん(67)は百人を超える視聴者に向け、高血圧や糖尿病などが認知症のリスクを高めると指摘。発症の予防には、四十代からの生活習慣病対策が不可欠と語り掛けた。

◆40代から対策意識 高血圧や肥満、リスク要因

 まず説明したのは、物忘れと認知症の違いだ。物忘れは、昼ご飯に何を食べたかを思い出せないなど「体験の一部を忘れること」。認知症は、ご飯を食べたかどうかが分からないというように「体験ごとすっぽり忘れること」という。
 二〇一七年に英国の医学雑誌「ランセット」に発表された論文で、四十五~六十五歳の中年期の認知症のリスク要因として挙げられているのは三つ。高血圧、肥満、難聴だ。
 高血圧の状態が続くと、血管が硬くなる動脈硬化が進行しやすい。その結果、脳梗塞や脳出血を起こすと「血管性認知症」の原因になる。血圧は毎日測り、適切にコントロールしたい。
 一方で、認知症全体の六割以上を占める「アルツハイマー型認知症」の原因は、タンパク質「アミロイドβ(ベータ)」だ。脳内に蓄積されたアミロイドβが神経細胞を破壊することで引き起こされる。遠藤さんによると、異常蓄積は、睡眠不足や高血圧などを理由に発症の二十~三十年前、四十代後半~五十代で始まるという。
 発症を予防するには「脳の血液循環を高め、アミロイドβがたまりにくい状態にすることが大事」だ。ウオーキングやジョギング、エアロビクスなどの有酸素運動が役に立つ。全身の血の巡りがよくなり、脳に流れ込む血流量が増加するからだ。脳の酸素量が増えることで、栄養も神経細胞に届きやすくなる。
 お勧めは「週三回、三十分の早歩き」。歩きながら百から七ずつ引いていく計算をするなど、体を動かしながら頭のトレーニングをすると、より効果があるという。その場で足踏みをしながら、決まった数の倍数で手をたたくのもいい。
 アルツハイマー型の患者は高血圧や糖尿病、肥満などの生活習慣病を合併している例が多い。遠藤さんは「食生活を整えるなど四十~五十代の生活習慣病対策は、そのまま認知症予防」と訴えた。もう一つ、難聴は人の話やテレビなどの音が聞こえにくくなり、脳に入る情報が減ることの影響が大きいと考えられる。「早めに補聴器を着け、頭を使って考えることが欠かせない」と呼び掛けた。
 同じランセットの論文によると六十五歳以上の晩年期は、喫煙、うつ、運動不足、社会的孤立、糖尿病の五つが認知症のリスク要因という。遠藤さんは「定年後、家に閉じこもるのはよくない。趣味などを通じて社会とつながってほしい」と訴えた。
 他人と会話をすることも重要。その際に取り入れるといいと紹介したのは、回想法だ。記憶を引き出す古い写真や使っていた道具、思い出の品などを見ながら話をする。「高齢者は今のことは忘れるが、昔のことはよく覚えている」。昔のことを思い出しながら楽しく話すと、感情や理性、記憶をつかさどる脳の前頭前野の血流が増えるという研究もあるという。
 遠藤さんは「筋肉と同じで、頭も鍛えないと衰えてしまう」と強調。「『元気脳』は、夢や希望、そして楽しく生きるもとになる」と締めくくった。

◆こんなときどうすれば…?

 自分は認知症なのではないかと心配、同じ話を繰り返す相手にどう対応すれば…。当日までに参加者から寄せられた相談は約30件に上る。セミナー後に追加取材した内容も加え、認知症との向き合い方のヒントをまとめた。

【質問1】無気力になった夫にイライラ

 【東京・女性(80)】夫は、日常生活に介助が必要な状態だ。昔は読書好きで知的だったのに、今は物忘れもひどく、無気力。何かあると「どうせすぐ死ぬんだから」と投げやりだ。以前の夫と比べてイライラしてしまう。

 お互い気分転換を

 夫はうつ状態と考えられる。うつは認知症発症のリスクを高めるので、専門医に相談してほしい。加えて、体操や趣味など意欲が湧く方法を探すことが大事だ。それが難しければ、他の人との交流があるデイサービスを利用してはどうか。妻もその間に外出ができる。妻のイライラが夫に伝わると、夫も気分が落ち込んで悪循環に陥る。まずは夫の病態をしっかり理解することが大事。その上で、友達や家族に愚痴を言うなど気分転換を心掛け、にこにこして過ごしてもらいたい。

【質問2】食事が偏り栄養不足の義母

 【愛知・女性(48)】認知症の義母(86)が、血液検査で栄養不足の状態と分かった。しかし、本人は好きな物しか食べない。認知症患者の食生活についてアドバイスが欲しい。

 高タンパクを意識

 食べる意欲がない人には、気力が出る薬を処方することがある。漢方薬が効くケースも。どうしても食べない人には補助栄養剤を飲んでもらう場合もある。七十代後半になったら、体を保つため、高タンパクの食事を取ることが必要。高齢者が食べやすいよう配慮した食品も市販されているので、薬局で相談してみては。物を食べたがらない人の中には、薬や病気が原因で味覚や嗅覚に異常が出ている例もある。舌に細菌が付着していると、味覚異常が出やすい。舌専用のブラシを使うなどして、舌をきれいに保つことも大切だ。

【質問3】同じ話繰り返す高齢者

 【岐阜・女性(43)】介護の仕事をしている。険しい顔で、繰り返し同じことを言う利用者がいて、いつまで話を聞いたらいいのか悩む。特に夜は人手も少ないので、長々と相手をしていると他の人のケアができない。

 話題変えてみる

 お年寄りのケアは「傾聴」が一番大事。ただ話し始めると止まらない人もいる。私はそんなとき、「ところで、腹痛はどうなりましたか」など話題を変えるようにしている。「飲み物を持ってきましょうか」と言ってその場をいったん離れて温かい牛乳やお茶などを勧め、相手に気分転換をしてもらうのもいい。

【質問4】貴重品の置き場所忘れる

 【愛知・女性(81)】防犯のため、印鑑や通帳の置き場所を定期的に変えるが、どこに置いたかを忘れてしまうことがある。認知機能を評価する検査を受けたものの「認知症ではない」として、再び1年後に来るよう言われた。それからも物忘れが続いている。

 詳しい検査受けて

 大事な物の置き場所を忘れるというのは、生活に支障が出ている状況。磁気共鳴画像装置(MRI)による検査や、脳血流などの詳しい検査を受けた方がいい。セカンドオピニオンを求め、別の医師を受診するのも手だ。認知症は早く発見して手当てするほど、進行を抑えられる。

◇講師・遠藤英俊さん

<えんどう・ひでとし> 1954年生まれ。愛知県出身。35年以上にわたり、認知症を研究。国立長寿医療研究センター老年内科部長などを経て、今年3月に愛知県稲沢市で「いのくちファミリークリニック」を開院。火曜日生活面のコラム「Dr.’sサロン」の執筆者の1人。
 ◇
 セミナーは細川暁子、植木創太、河野紀子、熊崎未奈が担当しました。

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