都心のぶどう園 光のアート空間に 早大生、世田谷で結ぶ「地域と農」

2021年12月1日 07時02分

住宅街の中にある木村ぶどう園が「Lights in Farm」の会場=いずれも世田谷区で

 住宅密集地の世田谷区にあるブドウ園で先月下旬、早稲田大学の学生たちが、光のアートイベント「Lights in Farm」を開催した。手作りのランタンやイルミネーションが農園をやさしく照らす。8日間の期間中、地域の親子連れがひっきりなしに訪れるこのイベントは今年で8回目。小さな「夜の遊園地」は地域の風物詩となっている。
 東急大井町線・等々力駅を出て、緑の色濃い木々が生い茂る等々力渓谷を横切り徒歩十五分。住宅地に「木村ぶどう園」(同区野毛二)が現れた。収穫を終え休耕中のこの畑が会場だ。
 湿った土の香りがする。草を踏み締めながら入ると、イルミネーションで飾られたトラクターが出迎えてくれた。ブドウ棚にはカラフルなランタンがつるされ、足元には細かく穴を開けた光る空き缶がずらりと並ぶ。

アルミ缶に穴を開けて作られた作品

 テーマは「溢(あふ)れる、弾ける、その手が紡ぐ」。区立野毛青少年交流センターなど地域に関わりの深い団体をはじめ、早大生のイルミネーションサークル、練馬区立開進第一小学校など、過去最多の九団体が参加した。
 図画工作担当教諭の楚良(そら)浄さん(59)は今年で四回目の出展。ミラーボールの上にビニール傘を重ねたドームなどを展示。その上に、ブラックライトを反射するひもが張り巡らされている。来場者は、神社のおみくじのように、好きな場所にひもを結ぶことができ、作品に参加できる。「ちょっとした行為でもつながりを生むことを表現した。農園という場所は普段アートに関心のない人にも見てもらえる場所なので非常に新鮮です」と話し、作品に触れる子どもたちを優しく見守っていた。

最優秀賞に選ばれた作品。多くのペットボトルが幻想的な光景をつくり出す

優秀賞はブラックライトを反射するひもで作られた作品

 このように、会場には子どもたちが触れられる作品があるほか、イルミネーションを背景にシャボン玉を飛ばしたり、学生と一緒にステンドグラス風の紙工作ができたりするコーナーもあった。

イルミネーションの前でシャボン玉を楽しむ子ども

 長女(6つ)や幼稚園のママ友と来た主婦(43)は「近くの公園にはよく行くけれど、農園があるなんて知らなかった。住宅地が多い地域なので、こうして地元の人がふらっと集まれるのはうれしい」と話した。
 イベントは、同大社会科学部・卯月盛夫教授(コミュニティーデザイン)のゼミで、世田谷の魅力を学生の視点で発信する「世田谷班」の三、四年生十四人が約一年かけて企画・運営している。班長の佐藤幹太さん(22)は「コロナ禍で人と人との距離が遠くなってしまう今だからこそ、地域のつながりの大切さを再認識してほしい」と話す。
 そもそも木村ぶどう園は都市部にある「生産緑地」の一つ。緑をもたらすほか、有事に避難や食べ物が供給できる機能があるが、地域に知られないまま減少しているという。
 「ブドウ棚のある空間は背の低い子どもたちが親しみを覚えやすく魅力的だ」と卯月教授。多くの人に伝える機会を模索していたところ、友人が立川市内の自分のブドウ園をライトアップしていたことを知った。これを参考に、卯月教授の自宅近くの木村ぶどう園で、二〇一四年から始めた。
 「子供たちが作品をつくって展示すれば、両親や祖父母が農園を訪れる。あの場所がアピールされ続ければ、最終的に緑地の良さや重要性に気づくはず」と相乗効果を期待する。
 今年は約七百人が来場。訪れた誰もが、手作り感いっぱいのあたたかな光を楽しそうに見つめていた。コロナ禍のつらい今を、少しだけ忘れさせてくれるような、幻想的な空間が、そこにはあった。
文・山下葉月 写真・内山田正夫
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