五輪開催決定で進んだジェンダー平等 森喜朗氏の「女性が多い理事会は…」発言で劇的変革

2021年12月2日 06時00分

日本セーリング連盟顧問の中川千鶴子さん

<東京2020 レガシー①女性理事>
 理事会で飛び交う用語がさっぱり分からない。自営の仕事との両立も難しい。でも数少ない女性として、欠席するわけにいかない。「女性の欠席は目立つ。男性で欠席が多い人は何も言われないのにね」。今年9月まで約9年、日本セーリング連盟の副会長を務めた中川千鶴子さん(79)は苦笑しつつ、初めて同連盟の理事に就いた24年前を懐かしむ。
 当時から連盟は女性登用に意欲的で、中川さんは女性初の理事の一人だった。子育て中の選手も競技に参加しやすいようにと、2002年高知国体ではチャイルドルームの設置を実現。当初は「子どもなんか預かってどうするの」と反対する男性理事もいた。日本オリンピック委員会(JOC)の会議で他の競技団体の女性理事と顔を合わせると、「自分たちはお飾り。認めてもらえない」と漏らす声も聞いた。

◆国際的な動向にも関心

 13年9月、東京五輪開催が決まる。各競技団体にも女性役員が少しずつ増え、17年春にはスポーツ庁などが、スポーツ界の女性の地位向上に取り組む国際団体による提言「ブライトン・プラス・ヘルシンキ宣言」に署名。日本セーリング連盟も定款を改定し、ようやく理事(23~32人)に女性枠3を設けた。
 「東京が決まり、日本のスポーツ界でも女性進出の取り組みが活性化したのは間違いない。ジェンダー平等など、国際的な動向にも関心が向くようになったのでは」。同連盟は国際大会にもチャイルドルームを置くようになり、19年の江の島の大会では、フランスやスペイン、英国などの選手も利用。「需要はある」と手応えを得た。
 内閣府によると、JOCに加盟する競技団体役員の女性割合は、14年度で7.41%。20年度には15.36%まで増えたものの、男性が大半を占める状況は続く。そこに今年2月、劇薬のような出来事が起きた。

記者の質問に答える東京五輪・パラリンピック組織委員会の橋本聖子会長。右は小谷実可子スポーツディレクター=2月24日、東京都中央区で

◆不適切発言でスポーツ界の遅れに光

 東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗前会長が「女性がたくさん入ってる理事会は時間がかかる」などと女性蔑視発言をし、9日後に辞任表明。後任の橋本聖子会長は、就任会見で「組織委の女性理事の比率を40%にする」と明言。わずか2週間後の理事会で新たに女性を12人加え、その割合は20.58%から42.22%に急増。6月、役員改選を迎えたJOCも足並みをそろえるように、女性理事を5人から12人に増やし、40%に到達した。
 皮肉にも、森氏の不適切な発言がスポーツ界の女性進出の遅れに光を当て、変革につながった形だ。
 「40%」は、19年にスポーツ庁が策定した競技団体の運営指針「ガバナンスコード」で女性理事割合の目標として示された数字。本年度に改選期を迎えた競技団体でも、達成するところが見られるようになった。

◆数合わせで終わらないように

 ただ、中川さんは「数さえ合わせればいいとなってしまったら、ちょっとまずい」と不安も抱く。選ばれた人がいかに組織に貢献し、後進につなげられるか。中川さんも東京五輪を終えた今年9月、信頼する女性に副会長の座を譲った。「私の時代はここまで。この先は展開が変わるかもしれないから、先代を追うのではなく、自分で考えてやってほしい」と見守るつもりだ。(兼村優希)
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 東京五輪・パラリンピックは、2013年9月の国際オリンピック委員会(IOC)総会で開催が決まり、これを機に日本スポーツ界は大きく変わった。新型コロナウイルスによる1年延期を経て、8年もの長い歳月は、何をもたらし、何を残したのか。7回にわたって検証する。

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