野花のように根を張り咲く 加藤登紀子さん 「第4幕」の生き方

2021年12月2日 07時22分

これからの生き方について語る加藤登紀子さん=東京都渋谷区で

 人生100年であれば、75歳からは「第4幕」−。歌手の加藤登紀子さん(77)はそう考えている。2年前、その幕は上がり、集大成のステージが続くはずだった。しかし、コロナ禍で思い描いたとおりの舞台にはならない。でも、それだからこそ見いだせた第4幕のテーマ、メッセージもある。「野花」のような生き方−。 (稲熊均)
 「知床旅情」のはまなす、「百万本のバラ」「さくらんぼの実る頃」「花はどこへ行った」−加藤さんが歌ってきた曲の大半はさまざまな花で彩られている。
 「意識してきたわけじゃなくて、まさにたまたまなんだけど、いろんな花が登場する。しかも野に咲く花が多い。生きること、愛すること、別れること…そういった思いを花に託して歌ってきたのかもしれない」
 これに気付かされる一つのきっかけになったのが、コロナ禍での活動制限だ。花も咲けない過酷な天候にあっても野草は地中に根を伸ばし、やがて花を咲かせる。歌手として、人として野花のように生きることを改めて学んだという。
 「昨年春の緊急事態宣言でライブも何もできなくなり、思い切って、私も含めて事務所全員で何カ月か休むことに決めたんです。スタッフには全員、給与は払う、私の米びつがスッカラカンになるまで生活は支えると宣言して(笑い)」

昨年6月、緊急事態宣言が一時明け、都内でのコンサートで次女Yaeさん(左)と熱唱する加藤さん

 休んでみて分かったのは本来やるべきなのに棚上げしてきたことが思いのほか多かったことだ。「体のチェックやボイストレーニングなどのレッスン。家では体の五十センチ以内に必ずギターを置くようにして、時間があればいつでもレッスンできるようにしました」
 最初の緊急事態が解除された直後の昨年六月、東京・渋谷のオーチャードホールで活動再開。定員50%未満の入場に有料ライブ配信を加え、歌とメッセージを届けた。「公演を支えてくれる企業もあって、先行き不安の中だからこそ、真の連帯を感じることができた」
 ただ第四幕はこれまでとは違い、「歌手ではない加藤登紀子」も考えていかなくてはならない。コロナ禍は「その時」を思い描くきっかけにもなった。
 「私は息が絶えるまで歌っていきたい。でも、そうはいかないかもしれない。私のような歌手でなく、どんな職業の方であっても、生きがいのように感じていた仕事から退かねばならない時がくるかもしれない。そんな場合、どうしたらいいのか。何か、その立場から落下したような感覚にとらわれ、持ち直すのに苦悩する人も多いと思う」
 活動自粛中、余裕のできた時間を裁縫などにも充てた。「子どものころ母に教えてもらった技術を生かして、着なくなった舞台衣装などを普段着にしたりエプロンにしたり、それを必要としているところに送る。それだけのことだけど達成感があって、使ってくれる人のことを想像するのが楽しい。どんなささいなことでも人とつながることもできる。ステージばかりが輝く場所ではない」
 もう一つ、第四幕で重要なのは過去の一〜三幕とつながっていること。最新のベストアルバム「花物語」では、それを象徴する取り組みにも挑戦している。
 「例えば『百万本のバラ』は、最初のレコーディング(一九八六年)の音源を入れたり、いくつかの年代の歌声も集めました。これまで巡り合ったさまざまな歌を時代の息吹とともに、花束にまとめるような思いでつくったアルバムです」
 収められている曲の一つ「花はどこへ行った」はこんな物語だ。少女に摘まれた野花が若者に贈られ、兵士となった若者は墓の土となり、やがてその墓に野花が咲く。この野花のように「人と人、時と時をつなげるような歌を届けていきたい」と願っている。 

◆哲さんの「警告」伝える

著書「哲さんの声が聞こえる」

 加藤さんが人生の「第4幕」でもう一つ大きなテーマにしているのは、アフガニスタンで人道支援に取り組んできた医師・中村哲さんが残した人間社会への「警告」を伝え続けることだ。
 2000年から加藤さんが環境省・国連環境計画親善大使を務めアジア各地を訪れた縁もあり、一昨年12月に中村さんが銃撃され亡くなるまで、親交を深めた。今年8月には「哲さんの声が聞こえる」を出版した。
 「哲さんはアフガンの砂漠を井戸で潤し多くの人を救った。でもまたいつか井戸は破壊されるかもしれない。人はそういう悲しい存在でもある。彼は身をもって世界に警告してきたと思う。その深い意味を一人でも多くの人に知ってほしい」
 ◇
 加藤さんの「ほろ酔いコンサート2021」は12月10日に横浜市の関内ホールで、25、26の両日に東京・有楽町のヒューリックホールで開かれる。問い合わせはトキコ・プランニング=(電)03(3352)3875=へ。

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