長女殺害され、妻も死亡「苦しみに終わりない」 被害者が語る支援充実への思い

2021年12月3日 06時00分
 川崎市の犯罪被害者等支援条例案を検討している有識者会議の委員で、2000年に娘を殺害された被害者でもある渡辺保さん(73)=横浜市=が本紙の取材に応じた。条例案が制定前の事件の被害者を支援の対象外としていることを「知らなかった」といい、「被害者の苦しみに終わりはなく、時がたてば必要な支援も変わる」として、市に方針の見直しを求めている。(安藤恭子)

川崎市の犯罪被害者等支援条例案 川崎市は11月26日に市議会に提案し、今後審議に入る。条例案では、心理の専門職を置くワンストップ相談窓口を新設するほか、医療費や葬祭費に充てる見舞金制度、心理的ケア、家事や保育などの生活支援、緊急避難や転居の際の住宅提供支援を行うなどとし、年間100件程度の相談を見込んでいる。施行予定は来年4月1日。

 川崎市が条例案の検討を始めたのは、19年5月に川崎市多摩区の登戸駅近くの路上で私立小学校の児童ら20人が殺傷された事件がきっかけだった。市は先月、条例案を議会に提出したが、予算増も理由に、支援の対象を今月半ばに見込む条例制定後の事件に限る方針を示し、小学校の保護者や議会から批判が上がっている。市は「相談には応じ、県などの既存施策につなげたい」と説明する。

◆「制定前の事件、特に議論なく」

「犯罪被害者には誰もがなり得る。自治体による支援条例が広がってほしい」と願う渡辺保さん=横浜市緑区で

 渡辺さんは2月以降、4回の有識者会議に参加。会議はオンラインや書面による非公開で行われ、県との情報共有や途切れることない支援の必要性を話し合ったというが、渡辺さんは「制定前の事件の被害者については特に議論がなく、登戸事件が対象外とは思わなかった」と話す。
 被害者の回復に長い時間がかかるというのは、渡辺さんの実感だ。00年10月、当時22歳の長女美保さんが横浜市の自宅近くで殺害された。3年後、中学で同級生だった男が自首したが、公判では無罪を主張。05年の横浜地裁判決の際は「おまえが迎えに行かなかったから死んだんだよ」と遺族に暴言を発した。
 妻の啓子さんは06年、踏切で電車にはねられ、53歳で亡くなった。心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断されて事件後の5年半、心療内科に通っていた。警察は自殺とみているが「私は家族2人とも殺されたと思う」と渡辺さん。啓子さんを救えなかったことへの悔いも残った。
 元同級生の男に対する無期懲役判決が最高裁で確定したのは、07年だった。

◆「助け求める被害者いる限り、支援応じて」

 自分たちが受けられなかった日常生活や被害の回復に向けた支援を身近な自治体に求めようと、渡辺さんは14年に「被害者が創る条例研究会」を発足。世話人として、条例のモデル案を全国の自治体に送付し、制定を促してきた。警察庁の犯罪被害者白書によると、4月1日時点で被害者支援に特化した条例を32都道府県が制定したが、政令市は20市のうち8市にとどまる。
 渡辺さんは川崎市の条例化でカウンセリングなどの制度が設けられ、事件直後からの早期支援が進むと期待してきた。一方、過去の事件が条例の対象外となれば、今声を上げられない犯罪被害者を傷つけかねないと危ぶむ。「助けを求める被害者がいる限り、条例に基づくカウンセリングや相談・情報提供にかかる支援には応じてほしい。被害者の意思に反する形で、支援の時期を区切らないでほしい」

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