<食卓ものがたり>名優愛した甘辛の妙 にしんそば(京都市)

2021年12月4日 07時34分

伝統の味「にしんそば」を守る松野泰治さん=京都市で

 昆布とかつお節で取った優しい味のだしに、ニシンがまとう甘辛いたれが溶け出す。京都を代表する一品として知られる「にしんそば」。一年のしめくくり、年越しに食べる人も多い。
 にしんそばが生まれたのは百四十年ほど前。一八六一(文久元)年創業の老舗そば店「松葉」の二代目、松野与三吉(よさきち)が発案した。四方を山に囲まれ、タンパク源をニシンやタラといった干魚類に頼っていた京都。そばとニシンの組み合わせは次第に人気となった。
 「今も伝統的な製法でつくっている」と四代目松野泰治さん(70)は言う。乾燥させたニシンを軟らかくなるまで煮たら、しょうゆやみりんなどで炊きあげ、一日釜で寝かせる。手間暇かけたニシンは骨まで食べられるほどだ。「形が崩れず、口に入れたときに初めてほぐれるのが理想」。大きさは二十センチ以上を守る。
 京都市東山区の本店は南座のすぐ隣に位置し、役者からの注文も多い。当代の片岡仁左衛門さん、中村鴈治郎さん、亡くなった坂田藤十郎さん…。泰治さんが「気が引き締まった」と忘れられないのは、故藤山寛美さんだ。「小僧の時、出前を届けたら『おだしがぬるい。ぼっちゃん、こんな商売したらあかん』と言われた」と懐かしむ。「でも、だからといって、出前を取るのをやめはるわけではなくて」と感謝する。
 新型コロナウイルスは、こうした役者との触れあいにも影を落とした。出前は楽屋の入り口でマネジャーに渡すように。「時節柄とはいえ、寂しい」。ニシンの漁獲量が減っているのも気掛かりだ。泰治さんは「年末までの量は確保したが、来年以降はどうなるか」と顔を曇らせる。
 「五年、十年先を見越して何でもやってみる」と、五月にはニシンの代わりにタラを使った「たらそば」を商品化した。客の反応は上々という。「店の灯(あか)りを消すわけにはいかない」と知恵を絞る。
 文・写真 長田真由美

◆取り寄せ

オンラインストアで買える商品

 松葉のにしんそばは1485円。写真は、ニシンがよく見えるよう、麺の外に出して撮影したが、本来は中に沈んでいる。熱いつゆをかけながら食べ進めると、どんどん味に深みが出て格別だ。
 オンラインストアでは、ニシンの棒煮1本を432円で販売。ニシンとそば、濃縮めんつゆ入りのセットは1人前で766円だ。年内の注文は20日まで。(問)松葉本社売店=電075(871)4929

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