<社説>帰国便の混乱 邦人保護の視点欠いた

2021年12月4日 07時46分
 政府は日本に到着する国際線の新規予約の停止要請をわずか三日で撤回した。「帰国できない」との声が殺到したためで当然の措置だ。要請から撤回までの経緯は混乱の極みであり、現政権の統治能力に疑問符を付けざるを得ない。
 停止要請は先月二十九日、国土交通省航空局長名で航空各社に通知する形で実施。新型コロナの変異株対策で新規入国を禁止したことを受けた措置で、その公表後空港も閑散とし始めた。
 しかし停止要請が明るみに出た直後から「出張者が帰れない」「駐在員の家族や留学生の一時帰国もできない」との声がメディアなどを通じて噴出。岸田文雄首相は三日後の今月二日になって要請撤回を国交省に指示した。
 一時的とはいえ日本人の帰国停止要請は憲法二二条が保障する移動の自由に抵触しかねない重大な行政判断だ。政府が最優先すべきである邦人保護の観点からも問題がある。
 政府内の指示系統をめぐっても迷走ぶりが露呈した。松野博一官房長官は二日の会見で、首相に停止要請の情報が上がったのは「昨夜(一日夜)だ」と述べた。事実なら、国交省は首相の判断を仰がないまま重大な判断を行ったことになる。政府は詳しい経緯を調査し、結果を迅速に公表すべきだ。
 感染症の水際対策は国交省のほか厚生労働省、外務省、法務省など各省庁の連携が必要不可欠だ。連携のために政府はタスクフォースを設置した。だが今回そこへの報告も遅れており、省庁間の縦割りの弊害は依然深刻だ。
 海外出張の場合、官民を問わず帰国便の予約をしないケースは多い。商談など仕事の先行きが読めず帰国のめどが立ちにくいためだ。政府内でこうした常識を指摘する声が上がれば帰国の妨げとなる判断は未然に防げたはずだ。
 必要な情報がスムーズに首相の下に集まらなければ的確な指示は不可能だ。岸田首相には、混乱を教訓に国民の命を守る水際対策の再徹底を求めたい。ただ、それが人事権を振りかざした官僚機構への支配復活につながらぬよう改めてくぎを刺しておきたい。

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