「今」映す時代ミステリー 『真・慶安太平記』 小説家・真保裕一さん(60)

2021年12月5日 07時00分

森清撮影・講談社提供

 江戸前期、兵学者由井正雪らが幕府転覆を企てたとされる、慶安の変。後に実録本「慶安太平記」ができ、講談や歌舞伎の演目にもなっているこの事件は、いったい何だったのか。ミステリーの名手が、最新の研究を取り込みつつ大胆に書き下ろした。「なかなか面白い発見もあって、それを物語に乗せていくのは楽しめました」と振り返る。
 時は三代将軍徳川家光の治世。戦乱は絶えたが、江戸城には権謀術数が渦巻いていた。大御所としてにらみをきかせる父秀忠。自らの地位を脅かしかねないと、弟忠長に疑心暗鬼を募らせる家光と、その意をくむ側近・松平信綱や乳母の春日局。<人の欲がある限り、戦世は終わりを見ない>。作中の一節が重く響く。
 秀忠の落胤(らくいん)で家光の弟保科正之は、決して出自を誇らず、家臣として実直に家光に仕える。才知に富むことから「知恵伊豆」と呼ばれた信綱は、正之が取り立てられないよう、ことあるごとに邪魔立てする。描き出される二人の心情と人間性の対比が鮮やかだ。
 家光は近しい者を引き立て、気に入らない大名を改易する。ちまたに浪人があふれても顧みない。近臣たちは保身のため、将軍の顔色をうかがい、へつらう。読み進めるうち、現代の政治に重なって見えてくる。「時代小説でもやっぱり『いま』が出てくるんですよ。この話をなぜいま、しかも書き下ろしで書いたか。皆さん、連想してくれるかなとは思っています」
 権力闘争に明け暮れる男たちの中、大奥で春日局を助けた義理のめい・祖心尼(そしんに)が異彩を放つ。調べるうちにその存在を知り、家光や正之ともつながる人物であることに驚いたという。「いろんな人を支え、強いだけじゃない女性を見つけて書くことができてうれしかった。自分の中で一つの自信になってます」
 江戸川乱歩賞を受賞したデビュー作『連鎖』から三十年。映画化された『ホワイトアウト』など数々の作品を世に送り出してきた。時代小説なども含めいずれの作品もミステリー的な要素が入っている、と言う。
 「好きですからね。ミステリーって、あらゆる感情の拡大解釈のような面があるんですよ。小さな感情のもつれや誰もが抱える複雑な思いを、物語の中で鮮やかに、しかも面白く描く。そういう目は大切にしたい。今回の時代ものも、そういうところを楽しんでもらえたら」。講談社・一九二五円。 (北爪三記)

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