らんたん 柚木(ゆずき)麻子著

2021年12月5日 07時00分

◆女子学校黎明期の群像に光
[評]青木千恵(書評家)

 大正最後の年、“河井道(みち)とも家族として暮らす”という条件付きで、渡辺ゆりは一色乕児(とらじ)の求婚を承諾する。道とゆりは明治三十七(一九〇四)年、津田梅子が主宰する女子英学塾で師弟として出会った。おしゃれで快活な道先生にゆりは憧れ、卒業後は親友になる。女性同士の絆、“シスターフッド”で結ばれた二人の仲は終生続いた。
 梅子や道が留学したアメリカのブリンマー大学には、上級生が下級生に灯籠を継承する“ランターンナイト”の儀式があった。<私がともした光より、もっと大きな光にして、それをまた新しい世代に継承するの。学校が運営される限りね>。道にそう話す梅子をはじめ、大山捨松、広岡浅子、林歌子ら、女性の地位の向上を求め、女子学校教育に尽力した群像が登場し、小説全体が光の海のようだ。
 明治十九年に函館に移住した道は、宣教師のサラ・クララ・スミスが創立した女学校で学ぶ楽しさを知った。スミス女史を通して新渡戸稲造とも知り合い、<提灯(ちょうちん)のように個人が光を独占するのではなく、大きな街灯をともして社会全体を照らすこと>を学んでシェアの精神と平和教育を掲げ、やがて昭和四年に恵泉女学園を創立する。
 本書は、恵泉女学園の卒業生でもある著者が、道とゆりを軸にして、明治、大正、昭和にわたる女子学校教育の黎明(れいめい)期を描いた女子大河小説だ。ゆりたちに支えられ、生徒数九人の小さな学園を道は創立するが、世の中は戦雲でみるみる暗くなっていく。せめて学園だけは明るくしたいと努めながら、道の内心は葛藤の連続だ。揺れる心情の描き方が独特で引き込まれる。
 日本では、第二次世界大戦後の昭和二十年になって女性に参政権が認められた。婦人参政権のほか、明治時代にはなかったことが、道の晩年に実現している。<津田梅子先生が先に切り拓き、道があとから石や木を退け、作ってきたものだった。いや、梅子さんの生まれる、もっともっと前から、それは始まっていた流れなのかもしれない>。読み応えのある大作である。
(小学館・1980円)
1981年生まれ。作家。『ナイルパーチの女子会』で山本周五郎賞などを受賞。

◆もう1冊

木村恵子著『河井道の生涯 光に歩んだ人』(岩波書店)。ノンフィクション。

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