週のはじめに考える 習氏のための新時代か

2021年12月5日 07時30分
 「新時代」と言えば、普通は心躍るものですが、このケースはどうでしょうか。中国共産党の習近平総書記が、異例の三期目続投に向けた動きを本格化させていることです。
 十一月の党重要会議「六中全会」で採択された党の百年を総括する史上三度目の歴史決議は、習氏を毛沢東、鄧小平両氏と肩を並べる指導者に位置づけ、今後を習氏の「新時代」と持ち上げました。
 党総書記に明文化された任期制限はありませんが、習氏が来年の党大会以降も続投すれば、江沢民、胡錦濤元総書記が踏襲してきた二期約十年の慣行を破る長期政権となります。
 一方、この会議では習氏後継をうかがわせる人事は示されませんでした。歴史決議にも「党の発展のためには党員が世代世代で奮闘する必要があり、後継者という根本の大計にも取り組まねばならない」と明記されたにもかかわらず、です。党も世代交代の重要性は認識しているのでしょうが、党大会まで、あと一年もありません。

◆鄧氏が権力継承に道筋

 習氏の前任の胡錦濤氏は二〇〇二年に江沢民氏を引き継いで党総書記の座につきましたが、早くも一九九二年の党大会の前に最高指導部の党政治局常務委員に選ばれています。江氏の後継と目され、十年も出番に備えてきたのです。
 中国の転機は、学生らの民主化運動を武力弾圧した八九年の天安門事件でした。党の威信は揺らぎました。事件後、最高実力者であった鄧小平氏は上海市トップだった江氏を党総書記に抜擢(ばってき)し、その下の世代である胡氏への平和的な権力交代の道筋をつけることで、政治や社会の安定を図ったといえるでしょう。
 鄧氏が主導した第二の歴史決議には「個人崇拝禁止」という言葉が盛り込まれていました。毛沢東独裁時代への反省を受け、鄧氏が最高指導部による集団指導体制へとカジを切ったからです。
 ところが、習氏が主導した第三の歴史決議からは「個人崇拝禁止」という言葉が消えました。党が「根本の大計」と言う後継者について、習氏が具体的な動きを見せていないのも気になります。
 党が「二〇三五年までの社会主義現代化の実現」という目標を掲げていることから、北京市民の間には「習氏は三期目どころか、あと十年以上も党トップを続けるつもりではないか」と勘ぐる見方すらあるそうです。
 胡氏の時代に九人であった政治局常務委員は習氏の時代に七人に減らされました。人数が少ない方が、最高指導部内で多数派を握る習氏の政治決定に有利だからといわれました。それでも常務委員数が奇数のままとされたのは、総書記といえども一票しか持たない多数決がまだ機能しているからだとみられてきましたが、それも危うくなっています。
 総書記を超越した絶対権力者ではなく、最高指導部内の兄貴分と位置づける集団指導の権力構造は、共産党一党支配の中国で個人崇拝を防ぐための政治の知恵でしたが、今や骨抜きにされています。

◆肉まん店に現れた習氏

 指導部人事について、香港紙・明報は、習氏と関係が近いとされる上海市トップの李強氏や、広東省トップの李希氏が、北京に異動するもようだと報じました。
 憲法による任期制限を受ける李克強首相は二三年に退くことになります。二人の李氏や胡春華副首相らは当面は首相候補であり、いずれ習氏後継を争うとしても、それにはまだ時間がかかるとみるべきでしょう。
 党総書記の任期慣行に従わないとみられる習氏は一八年には憲法を改正し、自身が兼務する国家主席の任期制限を撤廃しています。つまり、習氏がその気になれば、党と国家の両方の最高ポストに座り続けることが可能なのです。
 中国メディアの報道によると、習氏は党トップの座についた翌年の一三年末、北京郊外の肉まん店にふらりと現れ、自分で二十一元(約三百六十円)を支払って六つの肉まんを平らげました。
 女性店員に、習氏は「とてもおいしいよ。でも、庶民が口に入れる食品の安全には十分注意しないといけないよ」と話したと伝えられます。人民日報は「民衆との感情ますます近く」と報じ、その庶民派ぶりを持ち上げました。
 もちろん、最高指導者になって日が浅い時期でもあり、多分に大衆受けするパフォーマンスの意味合いもあったのでしょう。しかし、この頃は、習氏が庶民目線を強く意識した統治を心掛けていたのも間違いないでしょう。
 今や、異例の党総書記三期目に向け独裁的傾向を隠そうともしなくなった習氏。民を置き忘れ、習氏のための「新時代」にならないか不安が募ります。

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