「報道は命を賭すほど大切な仕事ですか?」 体制の闇に迫り、国を追われたロシアの女性記者に聞く

2021年12月6日 12時00分
 ペンで権力に立ち向かう報道の意義をたたえ、今年のノーベル平和賞は10日、フィリピンとロシアのジャーナリスト2氏に贈られる。国際非営利団体「ジャーナリスト保護委員会(CPJ)」によると、ロシアではここ30年で80人以上の記者が殺された。体制の闇に迫り、国を追われたロシアの女性記者に聞いてみた。「報道は命を賭すほど大切な仕事ですか?」(モスクワ・小柳悠志、写真も)

モスクワで4月、チェチェンの体制を批判する記事を書いたマリア・ジョロボワ記者

◆権力と闘う調査報道、今こそ価値

 この春、ロシアで話題になったニュースがある。南部チェチェン共和国で、首長(知事に相当)が、15歳の少女を「第2の妻」にしていたとのスクープだ。児童婚も重婚もロシアで違法なのにチェチェンでは野放しになっていた。
 「社会の不正義から目をそらしたくない。政府寄りの情報ばかり流す国営メディアが幅を利かせる今こそ、私たちの調査報道に価値がある」。こう話すのは記事を書いたマリア・ジョロボワ記者(33)だ。
 チェチェン批判はロシアでタブー。ソ連崩壊後、チェチェンの分離独立派とロシア軍との戦いが長く続き、現在はプーチン大統領から絶対的な信任を得た首長が、治安維持を理由に強権を振るっている。「ロシアで最も深い闇」とされるチェチェンに絡み、暗殺・不審死が後を絶たない。
 警察は6月、マリアさん宅やマリアさんが所属していた独立系メディア「プロエクト」の関係先を強襲し、パソコンや取材メモを押収。検察は同メディアを「望ましくない組織」に認定して解散に追い込んだ。マリアさんの同僚記者らはスパイと同義の「外国の代理人」に指定された。

◆「記者以外の仕事は考えられない」

 訴追の手が迫ったマリアさんは旧ソ連構成国のジョージア(グルジア)に逃げた。祖国の土を踏めなくなる可能性も覚悟のうえ。独立系メディア「メドゥーザ」に転職し、ペンをその手に取り戻した。
 「政権は記者を脅せば、不都合な記事が出なくなると勘違いしている。私は真実を多くの人に伝えたいから、記者以外の仕事に就くのは考えられない」とマリアさん。

暗殺されたポリトコフスカヤ記者の写真の前で会見するムラトフ編集長(左)

 ロシアの独立系新聞「ノーバヤ・ガゼータ」のドミトリー・ムラトフ編集長(60)が平和賞を受賞することについては「独立系メディアが弾圧されるロシアにとって、大きな意義がある」と喜んだ。ノーバヤも過去、チェチェン問題に迫ったアンナ・ポリトコフスカヤ記者らが殺された。
 平和賞のもう1人の受賞者はフィリピンのマリア・レッサ氏(58)。報道の意義に関する平和賞は、1935年のドイツの反戦記者が受賞して以来とされる。

◆大手メディアは政権に忖度

 マリア・ジョロボワ記者は、ロシアでは政権の意向に沿った報道が横行していると説明する。
 ―記者になった経緯は。
 「子どもの頃、ロシアでは批判精神にあふれた新聞や雑誌がたくさんあり、おのずとジャーナリズムに憧れた。15歳で単身モスクワに移り住み、印刷会社や衣料店でお金を稼ぎながら研修生として新聞社に入った」
 ―大手メディアは政権に忖度するのか。
 「例えば野党指導者ナバリヌイ氏の扱いについては敏感だ。有力紙コメルサントで記者をしていた頃、大統領報道官がプーチン大統領がナバリヌイ氏の名前を言いたがらない理由をメディア懇談会で説明した。その話を書いたら私は解雇された。ナバリヌイ氏の記事は編集長がじかに判断する決まりもあった」
 ―独立系メディアは政府系メディアに対抗できるのか。
 「野党指導者が権力者の腐敗ぶりを告発した動画は、膨大な再生件数が出た。価値のある調査報道も多くの人の関心を呼ぶ。ただ政府系メディアの影響力は大きく、ロシアのジャーナリズムの変革は難しい」

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