<社説>首相所信表明 理念・熱意が見えない

2021年12月7日 07時55分
 きのう召集された臨時国会で岸田文雄首相が所信表明演説を行った。新型コロナウイルス感染症対策や経済、社会保障、外交、安全保障などの当面する課題を網羅するにとどまり、どんな社会を目指すのか、理念が見えなかった。
 首相演説は「新しい資本主義」の説明に多くの時間を割いた。新自由主義で格差や貧困が拡大したとして、新しい資本主義を具体化することで「成長も分配も実現する」と強調し、「数世代に一度の歴史的挑戦」と位置付けた。
 掛け声は勇ましいが、内容の多くは、安倍・菅政権が取り組んできた政策の延長線上にある。
 例えば、通信網の整備で地方を活性化させる「デジタル田園都市国家構想」は、かつての「地方創生」との違いがはっきりしない。イノベーションの推進、クリーンエネルギー分野への投資などの成長戦略、賃上げをはじめとする分配政策も、過去の政権が手掛けてきたことだ。
 新しい資本主義が看板政策だとしても、新味も熱意も感じられないのは、首相がそうした政策で社会をどう変え、どんな未来を目指しているのか、具体像を示すに至っていないからではないか。
 首相は先の自民党総裁選まではアベノミクスを修正して「分配」重視の姿勢を示していたが、首相就任後は安倍晋三元首相らに配慮してか「成長と分配の好循環」に回帰し、方向性があいまいになった。総裁選で掲げていた金融所得課税の強化や令和版所得倍増計画にも所信表明では触れなかった。
 首相は自ら議長を務める「新しい資本主義実現会議」で、全体像と実行計画を来春まとめる方針を示したが、どんな社会を目指すのかを信念を持って語らなければ、これまでの政権が取り組んできた政策に「新しい」という形容詞を冠しただけになりかねない。
 安保政策では、国家安全保障戦略の改定と、弾道ミサイル発射を相手国領域内で阻止する「敵基地攻撃能力の保有」検討を明言した。先制攻撃を意味し、憲法や国際法に違反しかねない「敵基地攻撃」の表現をそのまま演説で使ったことは軽率ではなかったか。
 臨時国会では衆院選後初めて衆参両院で予算委員会が開かれ、本格論戦が行われる。どんな社会、政治を目指すのか、過去の政権とは何が違うのか、首相は自らの言葉で丁寧に語るべきである。

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