花咲く昔話 進行予防も 障害者と認知症高齢者が対話 回想フォン

2021年12月8日 10時12分

パソコン画面の河和旦さんと会話する盛田智子さん=愛知県武豊町で

 高齢者が昔を思い出すことで、認知機能の維持につながるとされる心理療法「回想法」。障害者がカウンセラーを務め、自宅からビデオ通話で介護施設の入所者と会話する取り組みも広がりつつある。コロナ禍で外部の人との接触が制限される中、施設側は「入所者のQOL(生活の質)が向上した」と歓迎。障害者の就労の場としても役立っているようだ。 (五十住和樹)
 「お嫁に来たときは、お勝手にむしろが敷いてあってね、履物はわら草履でしたよ」。愛知県武豊町の特別養護老人ホーム「くすのきの里」で暮らす軽度認知症の盛田智子さん(85)は二年半ほど前から毎週水曜午後の三十分間、居室のパソコンで、東京都中央区に住む視覚障害者の河和旦(かわただし)さん(35)とのビデオ通話を楽しんでいる。
 十月中旬のこの日は、施設のイベントでたこ焼きを食べたという話から、河和さんが会話を膨らませ、盛田さんの若い頃の記憶を次々と引き出した。子どもの頃に食べた綿菓子、食べ物がなかった終戦直後のひもじい思い、山中でくんだ水を分け合って洗濯をしたこと…。時間はあっという間に過ぎ、盛田さんは「昔の話をするのは楽しいし、元気が出る。(次回に向けて)一週間かけて昔の話を思い出すんです」と話した。
 このビデオ通話の仕組みは、本面のコラム「寝たきり社長の上を向いて」を連載中の佐藤仙務(ひさむ)さん(30)が考案した独自のサービス「回想フォン」だ。佐藤さんによると、障害者が障害者の話を聞くピアカウンセリングを七〜八年前に始めたのがきっかけ。最近の記憶の保持が難しい認知症だが、昔の記憶は比較的保たれている。回想法による会話で脳が活性化し、精神的な安定や症状の進行予防も期待できることを知り、障害者の就労の場の一つとして二〇一七年から始めた。
 くすのきの里では、吉井覚施設長(45)が佐藤さんの活動を知り、一八年末に回想フォンを導入。月額一万一千円の費用は施設が負担している。担当のケアマネジャー瀧勇士さん(33)は「利用者は楽しんでやっている。コロナ禍の中では外出や面会が制限され、外とつながる貴重なツール。日々の生活に張りを、生きる力を持ってほしい」と話す。
 ◇ 
 回想フォンでカウンセラーとなる障害者らは、佐藤さんが代表理事を務める一般社団法人日本ピアカウンセリングアカデミー(東京)の養成講座を受け、同法人の資格「オンラインピアカウンセラー」を取得。現在は約三十人が資格認定され、うち数人が愛知県内の四つの介護施設と契約して働いているという。
 車椅子使用者でもある河和さんは一九年に養成講座を受講し、カウンセラーとして認定された。特養での事務職員の経験や、自らが障害者であることで「心身が弱った高齢者のつらい気持ちに共感でき、丁寧に話を聴くことができる」とやりがいを語る。
 通勤が困難な障害者には、自宅からオンラインでできる仕事が必要だ。カウンセラーは河和さんの就労につながったが、「これだけでは経済的自立は難しい」とも。起業して視覚障害者向けのパソコン教室やサポートを行う仕事にも励んでいるという。「会員制交流サイト(SNS)やメールマガジンでアピールしてるが、営業は難しい」と苦労を話す。

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