<炎上考>働く女性は「よくばり」でパパの育児は「お手伝い」なのか 広島県の冊子に批判続出 吉良智子

2021年12月9日 06時00分
 広島県が出した『働く女性応援よくばりハンドブック』という冊子に、ネットで批判が続出している。仕事と育児の両立に役立ててほしいと昨年、県が発行。先月、無料配布のお知らせを県がツイートしたことがきっかけで、全国的に注目されることになった。
 まずタイトルだ。働かないと生活できない母親もいる。子どもがいて仕事をするのは「よくばり」なのか、と率直な疑問がわく。
 さらに、「ワーキングママの心構え 同僚・周囲への感謝と配慮を忘れずに!」と、母親にアドバイスするページの文章が火に油を注いだ。特にパパの部分に非難が集中した。パパのイラストは困り顔。理由は、仕事で疲れているのに夜泣きを我慢している、育児も「手伝って」いるのに、さらに妻が負担を要求するなんて…という内容である。

広島県の「働く女性応援よくばりハンドブック」より抜粋

 この「お手伝い」感覚は、「家事育児は自分の本来の仕事ではない」という考えから生じる。「妻および母の仕事」なので、手伝うだけ感謝しろということだ。冊子のアドバイスは「ちょっと大げさに感謝すると、パパもやる気を出してくれます」。つまり、妻は夫をケアしろというわけである。パパは親で当事者なのに、「なぜ周囲の人扱いになるのか謎」といった感想がネットでみられた。
 「家庭と仕事の両立」は女性にだけ求められる。冊子の冒頭には「『女性の活躍』が期待されています」とあるが、女性はこれまでもずっと家庭や地域などで「活躍」してきた。その「活躍」の場所は、家父長制社会に都合良く決められてきた歴史がある。たとえば戦時中は出征の穴埋めで女性が勤労動員されたが、戦後は復員した男性に職場を明け渡すことになった。
 そうした構造が変わっていないことを象徴するように、この冊子に載っている官民共同の団体「働き方改革推進・働く女性応援会議ひろしま」のメンバーの写真は男性ばかりで、当事者の女性の姿がない。
 これまでも母親のワンオペ育児を礼賛するかのような企業広告の炎上はたびたび起きた。だが今回は自治体が主体なだけに悪質である。行政の役目は、女性に罪悪感をもたせたり我慢を強いたりする社会構造の維持ではなく、それを変える努力をすることだろう。
  ◇ ◇
 ご好評いただきました吉良智子さんの連載「炎上考」は今回で終わります。

 きら・ともこ 美術史・ジェンダー史研究者


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